G1/22、G2/22の審決と今後の実務に与える影響

優先権の主体的要件に関する問題を扱ったG1/22、G2/22について拡大審判部の審決が2023年10月14日に公表されました。

以下に欧州特許庁の拡大審判部の審決と今後の実務に与える影響について解説します。

背景

欧州特許庁はこれまで優先権の主体的要件の判断の際に非常に厳しいアプローチを採用していました。

例えば、以下のように①基礎出願とその後の欧州特許出願とで出願人が変わる場合や、②基礎出願よりも欧州特許出願で出願人が減る場合において、優先権の譲渡証明ができなければ欧州では優先権の主体的要件を満たさないとして優先権の効力が認められませんでした(ガイドライン A-III, 6.1)。

①基礎出願:出願人A→欧州特許出願:出願人B
②基礎出願:出願人A、B→欧州特許出願:出願人A

また欧州特許庁は出願にかかる権利と優先権とは別という考えを採用しているため(T0407/14)、仮に基礎出願を第三者に譲渡した場合であっても、優先権を譲渡したことを証明できなければその第三者は譲受した基礎出願に基づく優先権が認められません。

欧州特許庁によるこの厳しいアプローチは、特に発明者が出願人となる米国出願に基づく優先権主張の高いハードルとなっていました。

この厳しいアプローチの適性が T 1513/17および T 2719/19の審判部によって疑問視され、拡大審判部に以下の質問が付託されました。

I. 欧州特許条約は、当事者が EPC 第 87 条(1)(b) に規定されている権利継承者であると有効に主張しているかどうかを判断する管轄権を 欧州特許庁に与えるか?

II. 質問 I に対する回答がYesの場合:

当事者B は、次のような場合に、EPC 第 87 条第 1 項に基づく優先権を主張する目的で、PCT 出願で主張されている優先権に有効に依拠することができるか?

1. PCT出願では、当事者 A を米国のみの出願人として指定し、当事者 B を欧州地域の特許保護を含む他の指定国の出願人として指定しており、
2. PCT出願は、当事者 A を出願人として指定する以前の特許出願に対する優先権を主張し、かつ
3. PCT出願で主張される優先権はパリ条約第 4 条に準拠している。

拡大審判部の決定

公表された拡大審判部の審決におけるOrderは以下の通りです。

I. The European Patent Office is competent to assess whether a party is entitled to claim priority under Article 87(1) EPC.

There is a rebuttable presumption under the autonomous law of the EPC that the applicant claiming priority in accordance with Article 88(1) EPC and the corresponding Implementing Regulations is entitled to claim priority.

II. The rebuttable presumption also applies in situations where the European patent application derives from a PCT application and/or where the priority applicant(s) are not identical with the subsequent applicant(s).

In a situation where a PCT application is jointly filed by parties A and B, (i) designating party A for one or more designated States and party B for one or more other designated States, and (ii) claiming priority from an earlier patent application designating party A as the applicant, the joint filing implies an agreement between parties A and B allowing party B to rely on the priority, unless there are substantial factual indications to the contrary.

和訳

I. 欧州特許庁は、当事者がEPC第87条第1項に基づく優先権を主張する権利を有するか否かを評価する権限を有する。
EPCの自治法の下では、EPC第88条第1項および対応する実施規則に従って優先権を主張する出願人が優先権を主張する権利を有するという反証可能な推定(rebuttable presumption)が適用される。

II. この反証可能な推定は、欧州特許出願がPCT出願から派生した場合、および/または、優先権主張出願人が後続出願人と同一でない場合にも適用される。
PCT出願が当事者AおよびBによって共同出願され、(i)当事者Aを1つ又は複数の指定国について指定し、当事者Bを1つ又は複数の他の指定国について指定し、(ii)当事者Aを出願人として指定した先の特許出願からの優先権を主張している場合、共同出願は、これに反する実質的な事実表示がない限り、当事者Bが優先権に依拠することを認める当事者A及びB間の合意を意味する。

今後の実務に与える影響

拡大審判部によるOrderにより、優先権主張の形式的要件を満たす限り仮に基礎出願の出願人と欧州特許出願の出願人とが異なっていたとしても反対の証拠が無い限り欧州特許出願の出願人が優先権の主体的要件を満たすと推定されます。

つまりこれまでは以下の例①または②のケースにおいては、優先権の譲渡証拠がなければ優先権の主体的要件が認められませんでしたが、今後は、優先権の譲渡証拠が無くとも優先権の主体的要件が認められます。

①基礎出願:出願人A→欧州特許出願:出願人B
②基礎出願:出願人A、B→欧州特許出願:出願人A

今後は優先権の主体的要件の判断の際により出願人そして特許権者にフレンドリーなアプローチが適用されることになります。出願人そして特許権者にとって好ましい審決であったと言えます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました