出願当初書面から導き出せない効果については実験データの後出しができません

欧州特許庁では発明の技術的効果を示す実験データの後出しが比較的簡単に認められます。

しかし実験データの後出しは常に認められるわけではありません。例えば後出し実験データによって立証しようとする効果が明細書に一切開示されていない場合などは、実験データの後出しが認められません。

今回は実験データによって立証しようとする効果が明細書に開示されていなかったが故に実験データの後だしが認められなかった審決T 235/13を紹介します。

1.背景

クレーム1

軟骨無形成症を有さない低身長患者の治療方法に用いる組成物であって、…当該組成物は有効成分としてC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)を含み、注射により投与され、ここで前記CNPは哺乳類(ヒトを含む)又は鳥類由来のCNP-53である。

明細書の記載

「本発明の組成物は、軟骨無形成症を有さない低身長症患者に対する治療用途又は低身長症患者以外の個体での伸長明用途に使用しうる」

「本発明の組成物は特に配列番号1のCNP- 22又は配列番号 2のCNP- 53を含むことが好ましい」

後出し実験データによって立証しようとした効果

「CNP-53の方がCNP-22と比較して半減期が長くいため生物学的利用能が高い」

2.論点

進歩性の議論において「CNP-53の方がCNP-22と比較して半減期が長くいため生物学的利用能が高い」という効果を立証する実験データを後出しすることは認められるか?

3.欧州特許庁の審判部の決定

「CNP-53の方がCNP-22と比較して半減期が長くいため生物学的利用能が高い」という効果を立証する実験データを後出しすることは認められない。

4.決定の理由の抜粋

2.4 The appellant argued that the technical problem should be formulated as the provision of an improved therapy for the specific short stature conditions, since CNP-53 had the unexpected property of improved bioavailability (because of the increased half-life) compared with CNP-22. Although this property had been shown only a posteriori, it should nevertheless be taken into account, in line with decisions T 1422/12 and T 440/91.

2.5 The board notes that the alleged unexpected property of improved bioavailability of CNP-53 in comparison with CNP-22 was not disclosed at all, or even hinted at, in the application as filed, which, as a matter of fact, teaches both CNP-22 and CNP-53 as equally suitable therapeutic agents and only presents data for CNP-22 transgenic mice. The same teaching, i.e. that CNP-22 and CNP-53 are biologically equivalent, can also be derived from the prior art, e.g. D12 (see also below). The now alleged advantage of CNP-53’s longer half-life in comparison with CNP-22, with the associated higher bioavailability in circulation, was only acknowledged later and therefore cannot be taken into consideration in the formulation of the technical problem. Thus, although post-published evidence may be used to confirm the teaching of the application as filed, it cannot be taken into account as evidence for a further, previously undisclosed, effect, such as a hitherto unknown specific advantage for which there was no suggestion at all in the application as filed.

和訳:
2.4 出願人は、CNP-53がCNP-22と比較して半減期が長く、したがって生物学的利用能が向上するという予期せぬ特性を有するため、技術的課題は「特定の低身長症に対する改良療法の提供」と定式化されるべきであると主張した。この特性は事後的に示されたものであるが、判決T 1422/12およびT 440/91に従い考慮されるべきであるとした。

2.5 しかし審判部は、CNP-53がCNP-22に比して生物学的利用能が向上するという主張された予期せぬ特性は、出願時には全く開示も示唆もされていなかったと指摘する。実際、出願書類はCNP-22およびCNP-53の両方を同等に適用可能な治療薬として教示しており、CNP-22トランスジェニックマウスに関するデータのみを示している。また、CNP-22とCNP-53が生物学的に同等であるという教示は、先行技術(例えばD12)からも導かれる。このように、CNP-53の半減期延長や血中利用能向上という利点は後日初めて認識されたものであり、技術的課題の定式化に考慮することはできない。したがって、後出の証拠は出願時の教示を裏付ける目的で用いることはできるものの、出願時に全く示唆されていなかった新たな効果、すなわち特定の利点の証拠として用いることはできない。

5.解説

本審決では審判部は後出し実験データによって立証しようとする効果が「出願時には全く開示も示唆もされていなかった」という理由で、実験データの後出しを認めませんでした。

このため出願当初書面から導き出せないような効果を立証しようとする実験データの後出しは欧州特許庁でも認められません。

また本審決T 235/13は、拡大審判部が実験データの後出しについて審理したG2/21において実験データの後出しについて正しく判断した審決として参照されています。実際にG2/21で参照された審決の中で出願当初書面から導き出せない効果を立証した実験データの後出しを認めた審決は存在しません(T 377/18、T415/11参照)。つまりG2/21では効果が出願当初書面から導き出せることが実験データの後出しを認める要件の1つとして認定されています。

一方で、G2/21後の審決の中には効果が出願当初書面から導き出せないような場合であっても実験データの後出しを認めた審決がかなり多く存在しますが(例えばT 1445/21、T2716/19など)、私個人的にはこれらの審決ではG2/21が誤って解釈されている思います。

タイトルとURLをコピーしました