EPOで課題が「単なる代替物の提供」であっても進歩性が認められる場合

欧州特許庁では進歩性の議論において客観的技術的課題が単なる代替物の提供と認定されてしまう場合があります(客観的技術的課題って何?という方は過去の記事「Problem Solution Approachの3つのステップ」をご参照ください)。

客観的技術的課題が単なる代替物の提供と認定されてしまうと多くの場合進歩性が否定されてしまうので、

客観的技術的課題が単なる代替物の提供=進歩性が無い

と思われている方も多いと思います。

しかし客観的技術的課題が単なる代替物と認定されてしまったからといって必ずしも進歩性が否定されるわけではありません。

欧州特許庁審判部審決集(Case Law of the Boards of Appeal)11版では客観的技術的課題が単なる代替物と認定された場合の進歩性について以下のように述べられています(I. D. 4.5 Alternative solution to a known problem)。

On the other hand, in T 1179/16 the board noted that if the only contribution of the invention was to propose something different from the prior art (i.e. the provision of an alternative), then it was usually appropriate to consider that the skilled reader would take into account any alternative known in the underlying technical field (unless the closest prior art teaches away from it). The board stated that in such cases it might not be required to justify the selection of a particular solution, because it was assumed that an invention based on incorporating known features for the sole purpose of establishing novelty must be rendered obvious by a corresponding step of selecting any alternative known in the art.

和訳:
一方、T 1179/16 では、審判部は、発明の唯一の貢献が先行技術と異なるもの(すなわち代替案の提供)を提示することにある場合(最も近い先行技術がそれを忌避する教示(
teach away)をしていない限り)当業者は当該技術分野で周知のあらゆる代替案を考慮に入れるとみなすのが通常相当である、と指摘した。審判部はさらに、そのような場合には特定の解決策を選択した理由付けを要しないこともあり得る、と述べた。というのも、新規性を確保することのみを目的として周知の特徴を取り込んだ発明は、周知の代替案のいずれかを選択するという対応する措置によって自明とされるべきだと推定されるからである。

つまり客観的技術的課題が単なる代替物と認定された場合であっても進歩性を否定するには以下の2つの条件を満たすことが必要です。

1)その代替案が先行技術で知られていること(代替案が公知であること)
2Closest Prior Artがその代替案を用いることの逆教唆をしていないこと

したがって客観的技術的課題が単なる代替物と認定された場合であっても代替案が公知で無い場合や、代替案が公知であったとしてもClosest Prior Artが逆教唆をしている場合は、進歩性が認められます。

このため客観的技術的課題が単なる代替物と認定された場合であってもすぐに進歩性を諦めずに、上記2つの条件が本当に満たされているかを検討することが大切です。

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