欧州で標準必須特許権に基づく差止が認められるための要件

標準必須特許とは

標準として採用された技術に不可欠な特許は標準必須特許(Standard Essential Patent略して「SEP」)と呼ばれます。この標準必須特許の特許権者(以下「SEP保有者」)はこの標準を使用せざるを得ない競合他社(以下「SEP使用者」)にとって極めて有利なポジションに立ちます。このため標準を策定する標準化団体は第三者による標準の公正な使用を促すために団体の構成員であるSEP保有者に対して公正、合理的かつ非差別的な条件(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory terms and conditions,以下「FRAND条件」)でライセンスを提供する旨の宣言をすることを要求します。

標準必須特許権に基づく権利行使の制限

また標準必須特許件に基づく権利行使を無制限に認めてしまうとSEP使用者にとっては極めて不利な競争制限状態が生じてしまいます。このため標準必須特許権に基づく権利行使には例えば独禁法等に基づく制限が各国で設けられています。

欧州でも標準必須特許権に基づく差止請求は「市場における支配的地位の濫用」を禁止するEU運営条約(TFEU)第102条に基づいて制限されることがあります。いかなる場合に標準必須特許権に基づく差止請求が認められ、いかなる場合に制限されるかの具体的な要件は2015年7月に欧州連合司法裁判所(CJEU)によって下されたHuawei vs ZTE事件の判決で明らかにされました。

SEP保有者に求められる要件

Huawei vs ZTE 事件で明確化されたSEP保有者による標準必須特許権に基づく侵害差止の訴えの提起が認められる要件は以下の2つです:

① 訴えの提起の前にSEP保有者がSEP使用者に対して侵害されているSEPを指定し,その侵害の態様を特定することによって警告を行ったこと、かつ
② SEP使用者がFRAND条件によるライセンス契約を締結する意思がある旨を表明した後に,FRAND条件による具体的なライセンスのオファーをSEP使用者に提示したこと

SEP使用者に求められる要件

一方でSEP使用者は以下の3つの要件を満たせばTFEU第102条に基づき支配的位置の濫用の抗弁を主張することで差止を免れることができます。

① SEP使用者がFRAND条件によるライセンス契約を締結する意思がある旨を表明したこと、
② SEP使用者がSEP保有者によるライセンスのオファーを拒否した場合は、SEP使用者が遅延なくFRAND条件による具体的なライセンスの逆オファーをSEP保有者に提示したこと、そして
③ SEP保有者がSEP使用者によるライセンスの逆オファーを拒否した場合は、その時点からSEP使用者が供託などの手段によって適切な担保を提供したこと

まとめ

Huawei vs ZTE 事件で明確化された標準必須特許権に基づく侵害差止の訴えにおけるSEP保有者およびSEP使用者の義務をまとめると以下のようになります。

参考資料

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/20150717_rev2.pdf
http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf?text=&docid=165911&pageIndex=0&doclang=en&mode=req&dir=&occ=first&part=1&cid=350252

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