新卒で特許事務所に入所したらどうなるか

梅澤先生の「弁理士・特許技術者として特許事務所に入所したらどうなるのか」という記事にインスパイアされたので、私自身の経験から新卒で特許事務所に入所したらどうなるかについて解説します。

1.なぜ新卒で特許事務所に入所したのか

私は大学で生物学を専攻としていたのですが終わらない実験の毎日が嫌になり、早々に研究者および技術者としてのキャリアをあきらめました。そして当時浅はかにも楽に稼げると思っていた弁理士を目指すことにしました。

それならキャリアのスタートは特許事務所ではなく企業でもよいじゃないかと思われるかもしれませんが、当時の私は弁理士試験にうつつをぬかして真面目に就職活動をしていなかったせいか企業からの内定が得られませんでした。このため特許事務所に新卒で入るという当時でも稀な選択を迫られました。

2.圧倒的若手

新卒で入所した場合、事務所では圧倒的な若手です。特に当時の事務所の特許技術グループは平均年齢が40歳以上だったのではないかと思います。

これだけ年齢差があると大変かと思われるかもしれませんが、当時の事務所の皆さんには大変可愛がってもらえました。思えば新卒の初々しさが回りの人たちにとっても新鮮だったのではないかと思います。仕事を一生懸命するよりも、元気に挨拶をする、飲み会幹事をする、社員旅行で芸をする、飲み会で沢山飲む、ご飯をご馳走になった際には沢山食べるといったことで若手ならではの元気さをアピールしたほうが方が回りの方からの評価につながった気がします。

3.最初の仕事は英文チェック

何の仕事を最初に任せられるかは事務所そして本人のスキルによって大きく異なると思いますが、私が事務所に入って最初に任された仕事が内外用英文明細書の翻訳チェックでした。私は入所の時点である程度の英語が出来たのでその点を評価してもらったのかなと思います。

しばらくすると明細書作成の仕事もやるようになりました。ある程度明細書作成ができるようになったら出張そして発明者面談にも同行させてもらえました。しばらくすると一人で出張・発明者面談をさせてもらえるようになりました。初めて一人で大阪まで出張したときはものすごく緊張したことを今でも覚えています。

4.教育は上司次第

多くの特許事務所ではマニュアル化された新人教育制度がありません。新人教育は直属の上司によるOJTがメインとなります。このため新人教育は上司の教育方針に大きく依存します。私の上司は大変教育熱心だったので実務についてだけではなく、ビジネスマナー、営業方法まで指導してくれました。通常は特許事務所でここまでの教育を受けることが出来ないと聞きますので、この点私は非常に幸運だったと思います。

ただ上司による実務の教育は大変厳しかったです。お客さんに出すメールですら最初は真っ赤に添削され、メールを1通完成させるのに1日以上かかったことがあります。また当時の上司は平日は忙しかったので私の書面のチェックは週末にしてもらっていました。このため週明けの月曜日にはいつも私の机の上に上司によってボコボコにされた書面が置かれていました。これがあって月曜日に出社するのが凄い憂鬱でした。こういった指導が辛くて働き始めて最初の2年くらいは毎日20回ほど弁理士を辞めたいと思っていました。

5.新卒で特許事務所への入所をお勧めできるか?

一般的に新卒で特許事務所に入ることのはあまり推奨されていません。しかし弁理士としてのキャリアを最初から視野に入れているのであれば新卒で特許事務所も悪くないと思います。

まず弁理士・特許技術者として一人前になるには上述したような厳しいトレーニングを経る必要がありますが、これは体力的に恵まれ、そして吸収力の高い新卒の方が有利です。当時の私は上司の指導を耐えられましたが、30代であれば体力的そして精神的に耐えられなかったと思います。

また一般的に弁理士・特許技術者として1人前になるには特許事務所で3~5年の経験が必要と言われています。このため新卒で特許事務所に入った場合は20代後半という若さで1人前の弁理士・特許技術者に成れるということになります。現在の日本弁理士の平均年齢が50歳程度であることを鑑みるとこの若さは圧倒的な差別化要因になります。

さらにこの若さで一人前の弁理士・特許技術者になることができればその後のキャリアの選択肢も多様になります。例えば司法試験や外国弁理士資格にチャレンジする時間も十分にありますし、この若さであれば企業に転職することもできます。独立して色々と試行錯誤してみるこのとも可能です。

ただ特許事務所のデメリットは教育制度が脆弱であるということです。したがって自律的に学習すること、同僚や上司から良いところを素直に吸収することが特許事務所内で社会人として成長する上で重要になります。

このように既に弁理士としてのキャリアを視野に入れておりかつ自律的に学習できる方にとっては新卒で特許事務所に入ることもアリだと思います。

私自身は新卒で特許事務所に入って良かったと思っています。弁理士という職業に興味があってこれから就職活動という学生の方々の参考になれば幸いです。

また特許事務所で新卒の弁理士・特許技術者の指導を担当される立場になられた方は何卒大切に指導・育成して頂ければと存じます。若い方はこの業界にとって宝ですので。

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