日本では医薬品や農薬の成分についての特許は、特許権の存続期間の延長登録によって保護期間を延長することが可能です。欧州にもこの特許権の存続期間の延長登録と同様のSPC(Supplementary Protection Certificates 補充的保護証明書)と呼ばれる制度があります。
このSPCを規定するEUの規則No 469/2009の3条(d)は、SPC出願は「医薬品として製品を上市するための最初の承認(” the first authorisation to place the product on the market as a medicinal product)」に基づかなければならないこと規定しています。
この規則No 469/2009の3条(d)を条文通りに読むと、過去に承認された有効成分の新たな用途に対して付与された販売承認は「最初の承認」にはあたらないためSPCの基礎となる承認とはならないことになります。つまり欧州ではいわゆる第2医薬用途の特許についてはSPCによる保護期間の延長は認められないことになります。
しかし2012年7月、欧州司法裁判所は第2医薬用途に関する特許についてSPCを認めるとの判決を下しました(C-130/11「Neurim」)。
このNeurim判決は、一方で医薬品関連特許の権利者にとっては大変喜ばしいものでしたが、他方で規則No 469/2009の3条(d)に反するとしてその妥当性が疑問視がされていました。
そしてこの度このNeurim判決に反する判決(C-673/18「Santen」)が欧州司法裁判所によって下されました。
Santen判決の判決文で欧州司法裁判所は以下のように述べています。
Article 3(d) of the SPC Regulation must be interpreted as meaning that a marketing authorisation cannot be considered to be the first marketing authorisation, for the purpose of that provision, where it covers a new therapeutic application of an active ingredient, or of a combination of active ingredients, and that active ingredient or combination has already been the subject of a marketing authorisation for a different therapeutic application.
和訳:
SPC規則の第3条(d)は、有効成分または有効成分の組み合わせの新たな治療用途をカバーしている販売承認が、その有効成分または組み合わせが既に別の治療用途のための販売承認の対象となっている場合には、最初の販売承認とはみなされないことを意味するものと解釈されなければならない。
さらに欧州司法裁判所は当該判断が”contrary to what the Court held in paragraph 27 of the judgment in Neurim”とNeurim判決に反するものであることを認めています。
つまり欧州司法裁判所は第2医薬用途に関する特許についてSPCを認めるとしたNeurim判決を覆し、規則No 469/2009の条文に従い第2医薬用途に関する特許についてSPCは認めないとの判断を下したと言えます。
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