EPOでは、審査過程または異議過程で、第1希望のクレームについての主請求(Main Request)とは別に第2希望以降のクレームを補請求(Auxiliary Request)として提出することが制度上認められています。この補請求という制度は日本にはないため、日本の出願人にとってはあまり馴染みが有りません。しかしながらこの補請求の実務を誤ると対象となる出願または特許にとって致命的な結果を招きかねません。
以下、補請求の実務について日本の実務家が誤解しがちな4点を紹介します。
誤解1:補請求を提出すると主請求の審査がいい加減になる
補請求を提出することで主請求の審査がいい加減になり主請求が認められにくくなることを懸念される場合があります。しかしながら主請求のロジックに妥当性があれば仮に補請求を提出したとしても主請求が認められます。すなわち補請求を提出したからといって主請求の審査がいい加減になるということはありません。
誤解2:補請求はそれぞれバラバラの方向性を有していてもよい
以下のように方向性が異なる補請求を検討される場合があります。
補請求1:A+X
補請求2:A+Y
補請求3:A+Z
しかしEPOのガイドラインは原則として以下のように一方向に収束するように構成された補請求しか認めていません(GL H-III, 3.3.1.2)。
補請求1:A+X
補請求2:A+X+Y
補請求3:A+ X+Y+Z
つまり方向性がバラバラの補請求は認められない(審査の対象とならない)ことがあります。
誤解3:新たな補請求の提出は口頭審理中でも認められる
補請求の提出が手続き上問題なく認められるのは口頭審理の召喚状で設定された書面提出の期限までです(EPC規則116条(2))。そして口頭審理中に提出された補請求は「遅れて提出された(late-filed)」ものとして扱われ、認められないことがあります(GL H-II, 2.7.1)。このため口頭審理中に新たな補請求が認められることを前提として補請求を出し惜しみすることは危険です。
誤解4:新たな補請求の提出は審判請求時に認められる
日本では拒絶査定不服審判請求の際に補正をすることができますが、EPOの審判部(Boards of Appeal)は、第一審(審査または異議)で審査されていない補請求を認めない権限を有します(RPBA12条(4))。このため審判請求時に新たな補請求が認められることを前提として補請求を出し惜しみすることは危険です。
まとめ
一般的に補請求を提出することに大きなデメリットはありませんが(誤解1参照)、補請求を出し惜しみすることには大きなデメリットがあります(誤解3および誤解4参照)。このため遅くとも審査過程また異議過程の口頭審理の召喚状で設定された期限までに考えられうる全ての補請求を提出しておくことをお勧めします。
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