ドイツで誤訳訂正が出来る根拠条文

ドイツでは日本語でドイツ特許出願した場合や日本語でなされたPCT出願をドイツに移行した場合は、原文の日本語書面に基づいて誤訳訂正ができます。しかしながらドイツ特許法には出願当初の開示範囲を超えないことを条件に補正を認める条文(ドイツ特許法38条)はあるものの日本特許法17条の2第2項のような誤訳訂正を規定した条文はありません。このため本当に誤訳訂正ができるのかが不安になります。

しかしドイツで誤訳訂正ができることはドイツ特許法38条から読み取れます。

ドイツ特許法38条の第1文は以下のようになっています。

「特許を付与すべき旨の決定が行われるときまでは、出願の内容は、出願の対象の範囲を拡大しないことを条件として、補正することができる(Bis zum Beschluß über die Erteilung des Patents sind Änderungen der in der Anmeldung enthaltenen Angaben, die den Gegenstand der Anmeldung nicht erweitern, zulässig)」

ここで注目すべきなのが上記下線部で強調された「出願の対象(Gegenstand der Anmeldung)」という用語です。

ここで用いられる「出願」という用語の解釈がBLPMZ(Blatt für Patent-, Muster- und Zeichenwesen ドイツ特許庁による月報)およびSchulteになされています。より具体的には原文がドイツ語以外の出願の場合は「開示内容はドイツ語翻訳ではなく元の言語における出願に従う(Offenbarungsgehalt richtet sich nach der Anmeldung in der Originalsprache und nicht nach der Übersetzung)」と記載されています(BLPMZ 98, page 403; Schulte 9th edition, page 920, para 25)。

さらにドイツの国際特許条約に関する法律(InPatÜG)では、PCT出願がドイツ語以外で提出された場合は、移行時に「出願の翻訳(eine Übersetzung der Anmeldung)」を提出すべき旨が規定されています(Art. III § 4 (2) InPatÜG)。

つまりドイツ語以外の言語でなされた直接出願またはPCT出願の場合、ドイツ特許法38条における「出願」とはドイツ語翻訳文ではなく、元の言語でなされた原出願を意味します。

すなわちドイツ特許法38条の第1文は

「特許を付与すべき旨の決定が行われるときまでは、出願の内容は、元の言語でなされた原出願の対象の範囲を拡大しないことを条件として、補正することができる」

と読むことができます。

したがって例えば原文が日本語である日本語ドイツ特許出願や日本語PCT出願のドイツ移行案件の場合は、ドイツ特許法38条に基づいて日本語の原文に基づいて補正ができる、つまり誤訳訂正もできると言えます。

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