[速報]EPO拡大審判部が本質的に生物学的な方法により得られた物は特許の対象外とする見解を示しました

欧州特許庁では、EPC53条(b)の規定により本質的に生物学的な方法は特許の対象となっていません。しかし本質的に生物学的な方法によって得られた植物および動物は2015年の拡大審判部の判決により特許の対象となるとされていました(G2/12、G2/13)。

しかしその後本質的に生物学的な方法により得られた植物および動物を特許の対象外とすることを規定する規則であるEPC規則28条(2)が導入されたり、EPC規則28条(2)を無効とする審判部による決定(T1063/18)が下されたり(過去の記事「EPOがEPC規則28条(2)を無視した判決を下しました」をご参照下さい)、欧州特許庁長官は本件に関する質問を再び拡大審判部に付託したりされた背景があり、本質的に生物学的な方法により得られた植物および動物が特許の対象なのか対象外なのかは拡大審判部の見解待ちとなっていました。

そしてついに昨日、欧州特許庁のプレスリリースで拡大審判部が本質的に生物学的な方法により得られた植物および動物は特許の対象外とする見解を示したことが公開されました(G3/19)。

この見解は拡大審判部自身が2015年に下した本質的に生物学的な方法によって得られた植物および動物は特許の対象であるとする判決と真っ向から反対するものです。

公開された拡大審判部の見解では2015年の拡大審判部自身の見解を翻した理由について以下のように説明しています。

G3/19パラグラフXVIII

the Enlarged Board in its current composition endorses both the conclusions and the reasoning of decision G 2/12 (supra). However, this is not to say that, with decision G 2/12, the meaning of the exception to patentability under Article 53(b) EPC has been settled once and for all, for it may emerge at a later point that there are aspects or developments which were unknown at the time the decision was issued or irrelevant to the case, or were otherwise not taken into consideration.
拡大審判部は、現在の構成では、決定G2/12の結論および理由の両方を支持している。しかし、これは決定G 2/12により、EPC53条(b)に基づく特許性の例外の意味が一挙に解決したことを意味するものではない。決定が下された下された際には知られていなかったり、本件とは無関係であったり、あるいは考慮されていなかった側面や展開が事後的に事後的に明らかになることもあり得るからである。

G3/19パラグラフXXVI.7

the Enlarged Board concludes that, in view of the clear legislative intent of the Contracting States as represented in the Administrative Council and having regard to Article 31(4) Vienna Convention, the introduction of Rule 28(2) EPC allows and indeed calls for a dynamic interpretation of Article 53(b) EPC.
拡大審判部は、管理理事会に代表される締約国の明確な立法趣旨の観点、そしてウィーン条約第31条(4)を考慮すると、EPC規則28(2)の導入はEPC53条(b)をダイナミックに解釈することを可能にし、実際にそれを求めるものであると結論付ける。

G3/19パラグラフXXVI.8

The Enlarged Board accordingly abandons the interpretation of Article 53(b) EPC given in decision G 2/12 (supra) and, in the light of Rule 28(2) EPC, holds that the term “essentially biological processes for the production of plants or animals” in Article 53(b) EPC is to be understood and applied as extending to products exclusively obtained by means of an essentially biological process or if the claimed process feature defines an essentially biological process.
したがって、拡大審判部は、決定G 2/12に示されたEPC53条(b)の解釈を放棄し、ECP規則28条(2)に照らして、EPC53条(b)の「植物または動物の生産のための本質的に生物学的な方法」という用語は、本質的に生物学的な方法によってのみ得られた製品、またはクレームされた方法の特徴が本質的に生物学的な方法を定義している場合まで拡大して理解および適用されるものとする。

これまでの経緯をまとめると以下のような感じになります。

出願人
「EPC53条(b)では本質的に生物学的な方法は特許の対象外としているけど、本質的に生物学的な方法で得られた物については何にも規定してないんだけど、そこんところどうなの?」

欧州特許庁拡大審判部2015年版
「EPC53条(b)の解釈によれば本質的に生物学的な方法により得られた物自体は特許の対象ですよ(G2/12、G2/13)」

欧州委員会
「はっ!?何勝手に判断してるの!?本質的に生物学的な方法により得られた物も特許の対象外とすべきでしょ!」

欧州特許庁管理理事会
「欧州委員会様、承知しました。本質的に生物学的な方法により得られた物を特許の対象外とする規則28条(2)を新設します。」

欧州特許庁審判部
「はっ!?何勝手に規則新設してるの!?拡大審判部によるEPC53条(b)の解釈と反するEPC規則28条(2)なんて無効ですよ!」

欧州特許庁長官
「はっ!?何でそんな空気読めないこと言うの!?こうなったら拡大審判部にもう一度確認してもらうよ。拡大審判部さん、EPC規則28条(2)は有効ですよね?(頼むぞ!)」

欧州特許庁拡大審判部2020年版
「拡大審判部2015年版が以前に本質的に生物学的な方法により得られた物自体は特許の対象って言いましたよね。あれは忘れて下さい。本質的に生物学的な方法により得られた物は特許の対象外です。なのでEPC規則28条(2)は有効です。」

参考資料:
欧州特許庁プレスリリース
G3/19 全文

コメント

タイトルとURLをコピーしました