UPC協定 その後のドイツでの出来事のまとめ

今年の3月にドイツ連邦憲法裁判所がUPC協定批准の承認手続きがドイツ憲法に違反しているので無効との判断をしたことは皆様の記憶に新しいと思います(過去の記事「
ドイツ連邦憲法裁判所がドイツがUPC協定を批准するための法律を無効としました」をご参照下さい)。一方でその後のドイツ国内でのことは日本語ではあまりニュースになっていませんでした。しかしドイツ連邦憲法裁判所の判決の後もドイツ国内ではUPC協定に関し色々な出来事がありました。

そこでドイツ連邦憲法裁判所が違憲判決を下してからこれまでドイツ国内で起きたことをまとめてみました。

*********************************************************************************************

ドイツ連邦憲法裁判所 「UPC協定の批准は実質的な憲法の修正だけれども、憲法の修正に必要な3分の2の多数でドイツ連邦議会によって承認されていないので違憲ですね。」

ドイツ政府 「ファッ!?せやけど単に手続きが違憲と判断されただけや。手続きをやり直してドイツ連邦議会で3分の2以上の多数で承認してさっさとUPC協定に批准すればええんやろ?」1)

新党ドイツのための選択肢(ドイツ連邦議会での議席率12.6%) 「もう一回承認手続きして我が党は絶対に承認せぬぞ。」2)

ドイツ連邦憲法裁判所のジャッジ 「そういえばこの間の判決で明言し忘れましたけどUPC協定への批准は手続面だけじゃなくて実体面でも違憲ですからね。」3)

ミュンヘンのNPO団体 「UPCはんたーい!UPC協定いけーん!もしドイツ政府がUPC協定に批准したらうちらが憲法異議を申し立てるから覚悟しておいてね。」4)

ドイツ政府 「アカン!もうやぶれかぶれや!こうなったらイチかバチかで承認手続きを進めるで。」5)

UPC準備委員 「ドイツではUPC協定批准の承認プロセスがうまく進んでいますね(震え声)。この調子だと近い将来にUPCの発効が期待できますね(白目)。」6)

解説:

1)2020年3月20日にドイツ連邦憲法裁判所でUPC協定の承認手続は違憲であるという判断を下してから約3月後の20206月10日、ドイツ連邦法務省は、今回違憲と判断されたのは単に採決手続に参加した議員が少なすぎたため3分の2以上の多数で可決できなかったという手続面の瑕疵によるものであり、実体面での問題はないとの解釈を公表し、同じ法案で承認手続を再度進める方針を示しました。
https://www.juve-patent.com/news-and-stories/legal-commentary/german-government-perseveres-with-upc-ratification/

2)2017年4月27日にドイツ連邦議会でUPC協定の承認法案が採決された際にはUPC協定の批准に反対する政党はありませんでした。ところがその後の2017年9月24日に投票が行われたドイツ連邦議会選挙で、ドイツのための選択肢(AfD)という右寄りの新党が政党名簿投票分で12.6%を獲得し、94議席を得るという事態が発生しました。このドイツのための選択肢(AfD)は明確にUPC協定の批准に反対しています。このため仮に再度法案の採決が行われるとしても、3分の2の多数で可決されることが出来るかが怪しくなってきました。
https://www.bundestag.de/dokumente/textarchiv/2018/kw11-de-patenrechtsreform-546352

3)2020年5月13日、UPC協定の違憲判決に携わったドイツ連邦憲法裁判所フーバー判事は、ドイツの日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングのインタビューで憲法に対するEU法の制限なき優越性(schrankenlosen Anwendungsvorrang des Europarechts vor dem Grundgesetz)は違憲という見解を述べ、EU法の優越性を明示したUPC協定(UPC協定20条)が実体面でも違憲であることを示唆しました。これは仮に承認法案が3分の2以上の多数で可決され手続面の瑕疵が解消できたとしても、実体面の瑕疵は解消されないことを意味します。
https://www.faz.net/aktuell/politik/inland/peter-huber-im-gespraech-das-ezb-urteil-war-zwingend-16766682.html

4)2020年に6月15日、UPC協定の批准に反対するミュンヘンのNPO団体であるThe Foundation for a Free Information Infrastructure (FFII)はもしドイツ政府がUPC批准手続きを進めるのであれば自ら第2の憲法異議を提起する準備があることをほのめかしました。
https://ffii.org/unitary-patent-germany-is-ignoring-brexit-european-law-its-constitutional-court-and-italians/

5)2020年9月11日、ドイツ政府が法案に修正を加えることなくUPC協定の承認法案を提出したことが公表されました。つまりドイツ政府は法案が実体面で違憲であるというリスクを抱えたまま承認手続を進ようとする姿勢が明らかになりました。
https://www.bristowsupc.com/latest-news/upc-preparatory-committee-meets-and-german-bill-progresses/

6)UPC準備委員会は2020年9月11日、ドイツで承認手続が進んでいること確認し、近い将来に統一特許制度が機能できるという楽観的な見解を示しました。
https://www.unified-patent-court.org/news/report-preparatory-committee-meeting-held-10-septe

コメント

タイトルとURLをコピーしました