EPOガイドライン G-II, 3.3.2「シミュレーション、設計またはモデリング」の和訳

3.3.2 シミュレーション、設計またはモデリング

シミュレーション、設計又はモデリングの方法を対象とするクレームは、通常、数学的方法又は精神的行為を行うための方法のカテゴリーに該当する特徴を含む。したがって、クレームされた対象は、全体として、EPC52条(2)(a)(c) および(3)に規定される特許性の排除に該当する可能性がある(G-II, 3.3および 3.5.1 を参照)。

しかしながら、本項で検討する方法は、少なくとも部分的にコンピュータで実行されるため、クレームされた対象は全体として特許性から除外されることはない。どの特徴が発明の技術的性質に寄与するかを決定する際にはG-II, 3.3 で概説した原則と同じ原則が適用される。

技術的に関連する条件下で、適切に定義された技術項目のクラスまたは特定の技術プロセスの挙動のコンピュータで実行されるシミュレーションは、技術的目的の要件を満たす(T 1227/05)。例としては,1/fノイズの影響を受ける電子回路の性能又は特定の工業的化学プロセスの数値シミュレーショ ンが挙げられる。

このようなコンピュータで実行されるシミュレーション方法は、実際の生産に先行する、および/または物理的な最終製品の製造段階を構成しないという理由だけでは、技術的効果を否定することはできない。

これに対して、マーケティングキャンペーン、物品輸送のための管理計画、コールセンターにおけるエージェントのスケジュール決定などの非技術的プロセスのシミュレーションは、技術的目的を表すものではない。さらに、「技術システムのシミュレーション」のような一般的な限定は、必要な技術的目的を定義するものではない。

特定の技術的オブジェクト(製品、システム又はプロセス)のコンピュータ支援設計においては、技術的オブジェクトの機能に本質的に関連する技術的パラメータの決定は、その決定が技術的考察に基づいている場合、技術的目的となる(T 471/05, T 625/11)。

例えば、光学系を設計するコンピュータにより実行される方法において、最適な光学性能を得るために、与えられた入力条件に対して屈折率や倍率などの技術的パラメータを決定するための特定の計算式を使用することは、技術的に貢献する。また、原子炉の運転パラメータが、応力によるスリーブの破裂の危険性を回避できる最大値を、コンピュータシミュレーションにより反復的に求めることも技術的に貢献する。

これに対し、コンピュータ支援設計による技術的パラメータの決定が、人間のユーザによる決定に依存し、そのような決定を行うための技術的配慮がクレームに明記されていない場合、そのような効果はクレームの特徴と因果関係がないため、設計の改善による技術的効果は認められない(T 835/10)。

コンピュータに実行される方法が、単に、製品、システム又はプロセスの抽象的なモデル、例えば、一連の方程式をもたらす場合、それ自体は、モデル化された製品、システム又はプロセスが技術的であっても、技術的効果とはみなされない(T 49/99, T 42/09)。例えば、製品構成のファミリーのための論理データモデルは、固有の技術的性格を持たず、そのような論理データモデルに到達するための工程を規定するだけの方法は、コンピュータによる実行を超える技術的貢献をすることはない。同様に、グラフィカルモデリング環境においてマルチプロセッサシステムをどのように記述するかを規定しただけの方法は、そのコンピュータによる実行を超える技術的貢献をすることはない。知的活動としての情報モデリングに関するG-II, 3.6.2が参照される。

原文:
G-II, 3.3.2「シミュレーション、設計またはモデリング」

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