EPC54条(4)の「物質又は組成物」に「細胞」は含まれるか?

EPC54条(4)および(5)では「物質又は組成物(substance or composition)」の発明についてその物自体が公知であっても医薬用途が新規であれば新規性が認められる旨が規定されています。

ここで気になるのが何が「物質又は組成物(substance or composition)」に含まれるかということです。「物質又は組成物(substance or composition)」に薬理効果を有する化合物およびそれを含む組成物が含まれることは自明です。しかし近年注目されている細胞治療や細胞医薬品のように細胞自体が投与の対象となる場合はどうなのでしょう?細胞を「物質又は組成物(substance or composition)」に含めるのは文言上無理があるような気がするので細胞はEPC54条(4)および(5)の対象とならないとも考えられます。

気になったので欧州特許庁の判決を調べてみましたが今まで細胞が54条(4)および(5)の「物質又は組成物(substance or composition)」に該当するかについて争われたケースは発見できませんでした。それでも気になったので欧州特許庁に問い合わせてみたところなんと欧州特許庁の特許法総局(Directorate Patent Law)からの非拘束的回答が得られました。

特許法総局(Directorate Patent Law)からの非拘束的回答によるとEPC54条(4)および(5)における「物質又は組成物(substance or composition)」とは一般的に薬剤(medicaments)または医薬品(drugs )と称される製薬業界の製品を意味します( T 773/10)。この定義に照らし合わせると細胞治療において投与対象となる細胞はEPC54条(4)および(5)の「物質又は組成物(substance or composition)」に該当するとのことです。

したがって細胞自体が公知であってもその細胞医療における医薬用途が新規であれば欧州で権利化できる可能性があります。

しかしこれはあくまで欧州特許庁の非束縛的回答なので今後欧州特許庁の審判部(Board of Appeal)によってこの見解が否定される可能性はあるのでご注意下さい。また細胞治療や細胞医薬品に関する発明は不特許事由(EPC53条、EPC規則28条)によって権利化できないこともありますのでご注意下さい。

参考条文:
Art. 54(4) EPC
Paragraphs 2 and 3 shall not exclude the patentability of any substance or composition, comprised in the state of the art, for use in a method referred to in Article 53(c), provided that its use for any such method is not comprised in the state of the art.

Art. 54(4) EPC
Paragraphs 2 and 3 shall also not exclude the patentability of any substance or composition referred to in paragraph 4 for any specific use in a method referred to in Article 53(c), provided that such use is not comprised in the state of the art.

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