ドイツで例外的に禁反言が適用されるための3つの条件

以前の記事「ドイツの裁判所によるクレーム解釈の原則」でも述べましたがドイツにおける侵害訴訟では禁反言の適用は原則ありません。つまりドイツでは侵害訴訟における裁判所は審査過程または異議・無効訴訟課程でなされた特許権者の主張に原則拘束されません。

しかしこの原則には例外があります。

今回は例外的にドイツの侵害訴訟において禁反言の適用が認められたケースを紹介します。具体的には特許権者が異議課程で行った権利範囲を限定する宣言がその後の侵害訴訟においても拘束力を有すること認めたドイツ最高裁(BGH)の判決(事件名:Weichvorrichtung II、ケース番号:X ZR 73/95)を紹介し、ドイツで禁反言が適用されるための条件を説明します。

背景

事件の背景は大まかに以下のようになります。

・XがYの特許Zに対して異議を申し立てる。

・異議過程でYが先行技術と特許発明との差異点を主張する一環で「実施形態Aは保護範囲に含まれない」との宣言をする。

・異議過程でYの主張が認められ特許Zが維持される。異議の決定文にはYの宣言「実施形態Aは保護範囲に含まれない」も明示される。

・Xが実施形態Aを実施する。

・YがXの実施形態Aの実施は特許Zの侵害であるとして侵害訴訟を提起する。

論点

YはXが参加した異議過程における宣言に反する主張をXに対する侵害訴訟ですることは許されるか?

ドイツ最高裁の判断

結論:
YはXが参加した異議過程でした宣言に反する主張をXに対する侵害訴訟ですることは信義則の観点から許されない。

判決文の抜粋:
「異議手続において特許出願人が特定の実施形態に対する特許保護を望まないと宣言し、その宣言が特許の付与の根拠であり、他の当事者が特許出願人の誠実さと確実性を信頼しうる場合、それにもかかわらず侵害訴訟において異議手続の当事者に当該実施形態に基づき特許権の主張をすることは許容されない権利行使(venire contra factum proprium)の観点から信義則に反する。」
“Erklärt der Patentanmelder im Einspruchsverfahren für eine bestimmte Ausführungsform keinen Patentschutz zu begehren, und macht er im Verletzungsstreitverfahren gleichwohl gegenüber einem am, Einspruchsverfahren Beteiligten Ansprüche aus dem Patent wegen dieser Ausführungsform geltend, so verstößt er gegen die Grundsätze von Treu und Glauben unter dem Gesichtspunkt der unzulässigen Rechtsausübung (venire contra factum proprium), wenn seine Erklärung Grundlage für die Erteilung des Patents oder dessen Fassung war und wenn der bzw. für dessen Aufrechterhaltung in Anspruch Genommene auf die Redlichkeit und Zuverlässigkeit des Patentanmelders vertrauen durfte. “

解説

上記判決からは、ドイツで例外的に禁反言が適用されるためには以下の3つの条件があることが導き出されます。

(1)侵害訴訟と同じ当事者間の異議または無効訴訟があったこと
前提として侵害訴訟の前に同一の当事者間で異議または無効訴訟があったことが必要になります。仮に侵害訴訟の前に異議または無効訴訟があったとしても侵害訴訟の当事者と異議または無効訴訟の当事者が異なる場合は、この要件を満たしません。

(2)異議または無効訴訟で権利範囲を狭める宣言があったこと
次に異議または無効訴訟で権利範囲を狭める宣言があったことが要件となります。権利者による単なる先行技術に対する意見だけでは宣言としての要件を満たしません。宣言としての要件を満たすためには上記判決のように権利範囲を限定する権利者の意図が明確でなければなりません。さらに上記判決のように当該宣言が決定文、判決文または公的な議事録に記録されていることが好ましいです。

(3)宣言が特許の維持に寄与したこと
仮に権利者による権利範囲を狭める宣言があったとしても、当該宣言が特許の維持に寄与しなかった場合は、その後の侵害訴訟での拘束力は発生しません。例えば権利者が異議課程で権利範囲を狭める宣言をしたとしても、異議部が当該宣言は客観的なクレーム解釈に反するとして考慮しなかった場合、その後の侵害訴訟では当該宣言による拘束力は発生しません。

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