[Plausibility]付託審判部によるG2/21の解釈・完結版[T 116/18]

以前の記事「付託審判部によるG2/21の解釈」で、G2/21のHeadnote IIで定められた基準は拡大審判部自身も認めているように極めて抽象的で、具体的に何を意味するのかが明らかでは無いこと、そしてG2/21で拡大審判部に質問を付託した審判部(事件番号:T116/18)による当該G2/21で定められた基準の解釈が待たれていたことを説明しました。

さらに付託審判部によるT116/18の決定自体は2023年7月28日に開催された口頭審理で言い渡されましたが(以前の記事「G2/21の差戻審で完全勝利しました」をご参照ください)、決定の理由がまだ公開されていなかったので付託審判部がG2/21のHeadnote IIをどのように解釈したのかが明らかではありませんでした。

そして2023年11月27日についに付託審判部による決定の理由が公開されました。

付託審判部の解釈

付託審判部によるG2/21のHeadnote IIの解釈は以下の通りです。

・G2/21のHeadnote IIでは「特許出願人または特許権者は、技術常識を念頭に置いて、当初の出願に基づき、当業者が技術的教示に包含され、同一の当初開示された発明によって具体化されるものとして当該効果を導き出せる場合、進歩性に関する技術的効果に依拠することができる」とされており、この要件は
「(i)技術常識を念頭に置いて、当初の出願に基づき技術的教示に包含され」と
「(ii)同一の当初開示された発明によって具体化される」との2つの要件に分けられる。
つまりG2/21のHeadnote IIによればpost-published evidenceが認められるには当該要件(i)および(ii)が満たされなければならない(審決の理由11.3.1、11.3.2参照)。

・G 2/21は投機的な発明は防止されるべきとしている。ここで出願の範囲が広ければ広いほど、その出願に定義されている発明が投機的であった可能性が高くなることを考慮すると、G 2/21の投機的な発明の防止という目的を達成するためには、G2/21のOrder No. 2の要件(i)および(ii)の審査は出願の最も広範な技術教示に基づかなければならない。これを踏まえるとG2/21のOrder No. 2の要件(i)「技術的教示に包含され」を満たすには、依拠される技術的効果が出願当初書面の最も広範な技術教示によって概念的に含まれていれば十分である。これは依拠される技術的効果が文言的に開示される必要がないことを意味し、例えば、当業者が、出願当初書面に基づいて、当該技術的効果がクレームされた主題に必然的に重要であることを認識できるだけでも十分であることを意味する(審決の理由11.8、11.9、11.10参照)。

・G2/21のOrder No. 2の要件(ii)「同一の当初開示された発明によって具体化される」の審査では、クレームされた主題により効果が達成できることを当業者が疑う正当な理由があったか否かを評価すべきである。この質問に対する質問がYesでない限り要件(ii)は満たされる(審決の理由11.11参照)。

解説・感想

T116/18で明らかとなった付託審判部によるG2/21のHeadnote IIの解釈によるとpost published evidenceが認められるのは,

post published evidenceがサポートしようとする技術的効果が、
(i)出願当初書面の最も広範な技術教示によって概念的に含まれており、かつ
(ii)当業者がクレームされた主題で当該技術的効果が達成できることを疑う正当な理由が無い場合、
になります。

これは所謂ab initio implausibilityと同等の基準であると言えます(「ab initio implausibility」って何?と言う方は過去の記事「Ab initio plausibility、Ab initio implausibilityおよびNo plausibilityの定義」をご参照ください)。

審決の理由を読むと審判部はG2/21のHeadnote IIの解釈にかなり力を注いだことが伺われます。これまでT 258/21やT 873/21といった審決でもG2/21のHeadnote IIの解釈が試みられてきましたが、本審決ほど、広範囲かつ深くG2/21のOrder No. 2を分析していません。またT116/18によって導き出された基準がG2/21のHeadnote IIよりも具体的で実際のケースに当てはめが可能であることを考慮するとこの基準が今後はEPOにおける実務で広く採用されるものと思われます。

これにて2015年に申し立てられたEPOでの異議を基端とした本件が幕を閉じました。本件は私が初めての主担当になった異議であったということもあり、個人的に強い思い入れがありました。

後出し実験の緻密なデザイン、技術的側面からの進歩性のアプローチ、口頭審理での駆け引き、相手側が提出した情報を利用したカウンター、EPOの方式面の厳しさを利用した攻撃などなど今の私の実務力の礎となっているのは本件であったと言っても過言ではありません。本件を通して本当に多くのことを勉強させていただきました。

案件の面白さ、欧州特許弁理士が一生に一度経験できるか否かという拡大審判部での経験が得られたこと、そしてクライアントにとって最も良い結果が得られたという観点から本件は今後も続くであろう私の弁理士キャリアにおいて間違いなく最も充実した仕事の1つになると思います。

本件に巡り合わせてくれたクライアント、異議申立人、異議部、審判部そして本件について応援・サポートして下さった全ての方に心より感謝申し上げます。

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