Two-lists principleにおけるリストの長さの下限は?

以前の記事「日本の実務家がしがちな欧州での危険な補正の形態4つ」で、欧州では2以上の特徴のリストから開示されていない組合せを選択する補正はsingling outと呼ばれ新規事項の追加に該当すると説明しました。この複数のリストからの選択は「Two-lists principle」とも呼ばれ、欧州特許庁における補正による新規事項の追加そして新規性の判断の指標となっています。

ここで気になるのが「リスト」とは何であるかです。

EPOのガイドラインによると「Two-lists principle」におけるリストは「特定の長さ(a certain length)」を有することが要件とされいます(ガイドラインG, VI, 8)。しかしガイドラインには長さの下限については何ら規定されていません。したがって列挙されている選択肢の数が何個以上であればリストとして取り扱われるかが明らかではありません。

そこで今回はリストの長さの下限に関する指標を示した欧州特許庁の審判部の審決T 0686/99を紹介します。

I. 背景

出願時のクレーム1

ハイドロフルオロカーボン系冷媒及びハイドロクロロフルオロカーボン系冷媒に混和可能な潤滑油組成物であって、基油として、エステル油、アルキルベンゼン油及び鉱油からなる群より選択される少なくとも1種[…]を含む潤滑油組成物。

出願時の明細書の記載

これらのハイドロフルオロカーボンおよびハイドロクロロフルオロカーボンは、単独または混合物として使用できる。

審判時のクレーム1

ハイドロフルオロカーボン冷媒と組み合わせて、[…]エステル油を含む潤滑油組成物の潤滑油としての使用。

II. 論点

「基油として、エステル油、アルキルベンゼン油」および「これらのハイドロフルオロカーボンおよびハイドロクロロフルオロカーボンは、単独または混合物として使用できる」はそれぞれリストを構成するか?

III. 欧州特許庁の審判部の判断

「基油として、エステル油、アルキルベンゼン油」および「これらのハイドロフルオロカーボンおよびハイドロクロロフルオロカーボンは、単独または混合物として使用できる」はそれぞれリストを構成する。したがって審判時のクレーム1でなされた補正は2以上の特徴のリストから開示されていない組合せを選択する補正に該当し、新規事項を追加する。

IV. 審決の抜粋

4.3.3. In view of the above, combining in Claim 1 a base oil mandatorily comprising ester oils with the hydrofluorocarbons listed in Claim 1, results from a multiple selection within two lists of alternative features, namely of ester oils from the list of base oils and of hydrofluorocarbons from the list of refrigerants, thereby generating a fresh particular combination. The content of the application as filed must not be considered to be a reservoir from which individual features pertaining to separate sections can be combined in order artificially to create a particular combination. In the absence of any pointer to that particular combination, this combined selection of features does not, for the person skilled in the art, emerge clearly and unambiguously from the content of the application as filed (cf. T 727/00 of 22 June 2001, point 1.1.4 of the reasons).

和訳
4.3.3. 上記を考慮すると、請求項1において、エステル油を必須成分とする基油を、請求項1に記載されたハイドロフルオロカーボンと組み合わせることは、代替特徴の2つのリスト、すなわち、基油のリストからのエステル油と冷媒のリストからのハイドロフルオロカーボンのリスト内で複数選択することになり、それによって新規の特定の組み合わせが生成される。出願の内容は、人為的に特定の組み合わせを作成するために、別々のセクションに関連する個々の特徴を組み合わせることができるリザーブであると考えられてはならない。そのような特定の組合せを指し示すものがない場合、当業者にとって、このような特徴の組合せ選択は、出願時の出願の内容から明確かつ一義的に導き出せるものではない。

V. 解説

上述のように欧州特許庁はハイドロフルオロカーボンそしてハイドロクロロフルオロカーボンの2つの選択肢の列挙もリストとみなしています。つまり欧州特許庁では列挙されている選択肢の数が2つであったとしても「リスト」であると判断され、複数の選択をした場合、新規事項追加と判断されるリスクがあります。

またこの考えは選択発明の新規性にも適用されます。以前の記事「欧州では1つのリストからの選択には新規性が認められません」で解説したように、新規事項追加の判断と同様に先行技術に開示された複数のリストからの選択を伴う主題は選択発明として新規性が認められます。実際に選択発明の新規性が論点となった別の審決T 7/86では以下の2つの選択肢からなるリスト(R1)と、5つの選択肢からなるリスト(R2)とからの選択に新規性を認めています。

先行技術

R1:Hまたは低級アルキル基
R2:Me、Et、Pr、Buまたは低級アルキル基

クレーム

R1:H
R2:低級アルキル基

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