欧州移行時にはクレームをマルチマルチに直すべきか?

日本では単従属クレーム同士を組合せる補正が新規事項の追加と判断されることはまずありませんが、補正による新規事項の追加に厳しい欧州特許庁ではこのような補正が新規事項の追加と判断されることが多々あります(過去の記事「欧州では単従属クレーム同士を組合せる補正が新規事項の追加と判断されることがあります」をご参照ください)。

欧州特許庁でこのような問題が発生せぬよう以前はクレームをマルチマルチ従属にしていました。

しかし日本でマルチマルチ従属の実務が認められなくなった以降は、明細書におけるリクレームの部分を活用する手法が主流になっているように思います。例えばPCT出願の場合、クレームは単従属とし、明細書におけるリクレームの部分をマルチマルチ従属とする手法です。

これに関してよく頂戴するのが

「PCT出願の欧州移行時にクレームをリクレームに合わせてマルチマルチ従属とした方が良いか?」

というご質問です。

審査過程だけに注目すると明細書のリクレームの部分だけで十分に補正用の組合せのストックが開示されているので、クレームをマルチマルチ従属としても特にメリットはありません。

クレームをマルチマルチ従属するメリットがあるとしたら異議を考慮した場合です。

欧州特許庁における異議では原則、明確性(EPC84条)を攻撃することができません(G3/14およびEPC138条参照)。

しかし異議において明細書を根拠としてクレーム補正をした場合は、例外として明確性(EPC84条)が審査されます。一方で異議において単に従属クレームを独立クレームに導入した場合は、明確性(EPC84条)は審査できません(G3/14参照)。

つまり欧州特許庁の異議においてと明細書のリクレームの部分はマルチマルチ従属となっているがクレームがマルチマルチ従属となっていない場合、従属クレーム同士を組み合わせる補正は明細書に基づく補正となり、明確性が攻撃される余地があります。

一方でクレームがマルチマルチ従属となっていなる場合、従属クレーム同士を組み合わせる補正はクレームに基づく補正となり、明確性が審査されません。

このため欧州特許庁における異議を考慮すると明細書のリクレームだけでなくクレームもマルチマルチ従属としておいた方が好ましいです。

しかし個人的には欧州特許庁で異議が申し立てられる確率および異議において従属クレーム同士に組み合わせが争点となる確率がかなり低いので、追加の欧州代理人の費用を払ってまでクレームをマルチマルチ従属に直す必要は無いと思っています。

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