欧州では単従属クレーム同士を組合せる補正が新規事項の追加と判断されることがあります

日本では複数の単従属クレームの特徴をメインクレームに追加する補正をしても新規事項を指摘されることはまずありません。しかし補正による新規事項の追加に大変厳しい欧州特許庁ではこの補正が問題となることがあります。

今回は複数の単従属クレームの特徴を組み合わせる補正が新規事項の追加と判断されたT 2282/16を紹介します。

I. 背景

出願時のクレーム

[請求項1]
 硬化性シリコーン混合物を概ね平面状の成形面上に押し出す工程であって、前記シリコーン混合物は、前記成形面に隣接する第1の表面および前記第1の表面とは反対側の第2の表面を規定する工程と、
 前記シリコーン混合物を架橋させるのに十分な硬化温度で前記成形面を加熱する工程と、
 前記シリコーン混合物を前記成形面上に均一に広げ、前記シリコーン混合物が概ね均一な厚さを有し、前記第2の表面が実質的に平面であるようにする工程と、
 加熱された前記成形面への露出により前記シリコーン混合物を架橋、ゲル変化させた後に前記シリコーン混合物の第2面を吸収性材料に積層する工程と、を有する
 創傷被覆材を製造するための方法。

[請求項5]
 前記成形面が連続的に移動する面である、請求項1に記載の方法。

[請求項7]
 前記シリコーン混合物が前記成形面上で硬化する際に、前記シリコーン混合物を穿孔する工程をさらに有する、請求項1に記載の方法。

登録時のクレーム

[請求項1]
 硬化性シリコーン混合物を連続的に移動する概ね平面状の成形面上に押し出す工程であって、前記シリコーン混合物は、前記成形面に隣接する第1の表面および前記第1の表面とは反対側の第2の表面を規定する工程と、
 前記シリコーン混合物を架橋させるのに十分な硬化温度で前記成形面を加熱する工程と、
 前記シリコーン混合物を前記成形面上に均一に広げ、前記シリコーン混合物が概ね均一な厚さを有し、前記第2の表面が実質的に平面であるようにする工程と、
 前記シリコーン混合物が前記成形面上で硬化する際に、前記シリコーン混合物を穿孔する工程と、
 加熱された前記成形面への露出により前記シリコーン混合物を架橋、ゲル変化させた後に前記シリコーン混合物の第2面を吸収性材料に積層する工程と、を有する
 創傷被覆材を製造するための方法。

II. 論点

登録時におけるクレーム1は出願内容を超えるか?すなわち登録クレーム1における出願時のクレーム5およびクレーム7の特徴の組合せは出願当初書面から直接的かつ明確(directly and unambiguously)に導き出せるか?

III. 欧州特許庁の審判部の決定

登録クレーム1における出願時のクレーム5およびクレーム7の特徴の組合せは出願当初書面から直接的かつ明確に導き出せない。すなわち登録時におけるクレーム1は出願内容を超える。

IV. 決定の理由の抜粋

2.3.出願時のクレーム5および7はそれぞれクレーム1にのみ従属し、互いには従属しない。従って、これらのクレームは従属構造によって互いに直接的にリンクしない。したがって、当該クレームは、それらの組み合わせに対する請求権を導き出すための直接的かつ明確な(direct and unambiguous)根拠を形成しない。これは確立された判例法とも一致する(例えば、T1362/15、理由4参照)。したがって、特許請求の範囲は、成形面が連続的に移動する面であり、この移動する成形面上で硬化する際にシリコーン混合物を穿孔する工程をさらに含む創傷被覆材を製造するための方法について、文言上すなわち明確な根拠とならない。

2.3.2.特許権者は米国を対象とする出願のドラフトの際にはマルチ従属は認められていないか、少なくとも一般的ではなく、こうした背景を踏まえてクレーム解釈をすべきと主張したが、この主張は認められない。米国特許法においてマルチ従属の一般的な禁止はなく、出願人は、マルチ従属クレームでも、さらに独立したより限定されたクレームでも、組み合わせをクレームすることが可能であった。PCT手続ではクレーム料金も発生しないので(提出された出願はPCT出願であることに留意)、クレーム7をクレーム5に従属させなかったのは、単に出願人の意図的な選択である可能性も同様にある。出願時の出願人の意図に関する結論は、単なる推測であり、直接かつ明確に導き出せない。

V. コメント

このように欧州特許庁では複数の単従属クレームの特徴の組合せが新規事項の追加と判断されることがあります。したがって欧州向けの出願では従属クレームは技術的に矛盾が生じない限りマルチ従属クレームとすることが好ましいです。さらに欧州ではマルチマルチ従属クレームにもなんら制限はありません。

また「PCT出願の出願時は従属クレームを単従属とし、欧州移行時に従属クレームをマルチ従属とすることはできますか?」とのご質問をよくいただきますが、このやり方ですと単従属クレームには無かった組合せが追加されることになりますので新規事項の追加と指摘されるリスクがあります。

したがってPCT出願の場合は出願時から従属クレームをマルチ従属とすることをお勧めします。

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