EPOおける異議で特許権者から和解を提案する好ましい3つのタイミング

欧州特許庁での異議(Opposition)は特許権者にも異議申立人にも費用および手間の面で多大な負担になります。

この多大な負担を避けるため、異議申立後に特許権者から異議申立人に異議の取下げを条件に和解を提案することがあります。

特に異議申立人が特許権者の競合他社でない場合などは特許が維持されたほうが両当事者にとって好ましいことが多いので、積極的に和解がなされ異議が取り下げられます。

しかしこの特許権者からの和解の提案および異議申立人による異議取下げはタイミングを誤ると異議部の職権で異議が続行されてしまい無意味になることがあります。このため異議手続中のどのタイミングで特許権者が和解を提案するかは重要な問題です。

以下に欧州特許庁における異議で特許権者から異議申立人に和解を提案するのに好ましい3つのタイミングを紹介します。

1.異議申立の直後

異議が申し立てられた後であってかつ特許権者が応答をする前のタイミングで和解が成立し、異議が取り下げられた場合は、異議部はほとんどの場合ケースに未着手なので異議が職権で続行されることはまずありません(T197/88)。

またこのタイミングですと特許権者の代理人費用もほとんど発生していません。

したがってこのタイミングで和解を成立させると、最も低リスクかつ低コストで特許を維持させることが出来ます。

2.異議部の予備的見解の受領直後

異議申立に対して特許権者が応答した後は通常異議部から予備的見解を含む口頭審理の召喚状が送付されます。この異議部の予備的見解の受領後であって口頭審理前も特許権者が和解を持ち掛けるタイミングとして好まれます。

特に異議部の予備的見解が特許権者寄りの場合、すなわち特許が維持されることを示唆する予備的見解の場合は、異議申立人が最終的に負ける可能性が高いため異議申立人にとっても和解をするインセンティブが高まります。

このタイミングで和解を成立させ異議が取り下げられると、口頭審理に掛かるはずだった費用を抑えつつ特許を維持することができます。

一方でこのタイミングで異議が取り下げられても異議部は職権で異議を続行することがあります(T560/90)。特に異議部の予備的見解が異議申立人寄りの場合、すなわち特許が取り消されることを示唆する予備的見解の場合は、仮に異議が取り下げられても、異議が職権で続行されてしまい最終的い特許が取り消されてしまうというリスクが高いです。

したがって異議部の予備的見解が異議申立人寄りの場合は、このタイミングで特許権者から和解を提案することは好ましくありません。

3.特許維持決定の直後

異議部が特許の維持決定を下したとしても異議申立人にはまだ不服申立手段である審判(Appeal)が残されています。

審判が請求されると統計上6割程度の確率で第一審(異議部)の判断が覆るので(審判部のAnnual Report参照)、この時点では依然として特許が取り消されるリスクが残っています。また審判は3年~5年と長期に及ぶのでさらなる費用および手間の負担が強いられます。

このため特許維持決定の直後であってかつ審判請求期限前も特許権者が和解を持ち掛けるタイミングとして好まれます。

このタイミングで和解の交渉をする場合、特許権者にとっては異議部による特許維持決定という交渉を有利にする材料がありますので、ライセンス料などの和解条件で交渉が特許権者にとって有利に進むことがあります。

まとめ

上記をまとめますと、欧州特許庁における異議で特許権者から異議申立人に和解を提案するのに好ましいタイミングは、1)異議申立の直後、2)特許権者寄りの予備的見解が得られた直後、そして3)特許維持決定の直後になります。

いずれのタイミングでも異議中の和解交渉は時間との闘いになります。異議手続中の和解交渉には特許権者の素早い意思決定とスピーディな現地代理人との連携が求められます。

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