UPC協定発効前の国内裁判が存在してもOpt Inできる?

統一特許裁判所(UPC)ではOpt Outによって管轄を国内裁判所に移管させた場合であってもOut Out を取り下げるOpt Inという手続きによって管轄を再度UPCに戻すことができます(「Opt Out、Opt In」って何?という方は「欧州単一特許制度についてよくあるQ&A」をご参照ください)。

このOpt InはUPC協定84条(4)により「国内裁判所に訴訟が提起されていない限り”Unless an action has already been brought before a national court”」許されます。

ここで論点のなるのが例えば以下の例①または例②のように2023年6月1日のUPC協定の発効日前に国内裁判所に訴訟が提起されていた場合は果たしてOpt Inが許されるか否かです。

例① 欧州特許付与→国内裁判所で訴訟提起→UPC協定発効→Opt Out→国内裁判所での判決が確定→Opt In?

例② 欧州特許付与→国内裁判所で訴訟提起→国内裁判所での判決が確定→UPC協定発効→Opt Out→Opt In?

この論点についてはこれまで公式な見解が公表されていませんでした。

しかしこの度UPCのヘルシンキ地方部に提起された仮差止めの訴えの事件(ケースID: 214/2023)において当該論点についてUPCによる初の見解が得られました。

当該事件の経緯は以下の通りです。

欧州特許付与→ドイツ国内裁判所で侵害訴訟提起→Opt Out→UPC協定発効→Opt In→UPCで仮差止めの訴えを提起

この事件においてUPCのヘルシンキ地方部はドイツ国内裁判所で侵害訴訟が現在進行形で継続中のためUPC協定84条(4)により特許権者はOpt Inをすることができず、UPCに管轄が無いため仮差止めの訴えを却下するとの結論を下しました。

つまりUPC協定発効前に提起され、かつUPC協定発効日後もまだ係属中である国内裁判所での訴訟が存在する場合、UPC協定84条(4)の「国内裁判所に訴訟が提起されていない限り”Unless an action has already been brought before a national court”」という要件が満たせずOpt Inが出来ないことになります。

一方でUPC協定発効前に既に完了した国内裁判所での訴訟は、UPC協定84条(4)の「国内裁判所の訴訟」に該当せず、Opt Inが可能なことが考えられます。つまり上記例①ではOpt Inが認められず、上記例②ではOpt Inが認められ得るということになります。

上記例②でOpt Inが認められてしまうということは、UPC協定発効前に欧州の国内裁判所で特許権侵害が認められた欧州特許に基づき、特許権者が再度UPCで侵害訴訟を提起できることを意味します。これは被告にとってはかなり脅威です。このような場合、被告は新規に欧州の国内裁判所で無効訴訟や侵害非存在確認訴訟などを提起して、特許権者による欧州特許のOpt Inをブロックする必要があります。

参考サイト:Helsinki local division scrutinises UPC opt-out process in AIM Sport vs. Supponor – JUVE Patent (juve-patent.com)

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