欧州ではクレームされた特徴が全て1の引例に開示されていても新規性が認められることがあります

日本ではクレームされた特徴が全て1つの引例に開示されていれば、仮に当該特徴の組合せが特定の実施形態や実施例で明示されていなくとも、新規性が否定されることが多いです。一方で欧州特許庁ではクレームされた特徴が全て1つの先行技術文献に開示されていた場合であっても、当該特徴の組合せが明示されていなければ、通常新規性が認められます。

今回は、この欧州特許庁の考え方が良く表れた判例T 0525/99を紹介します。

I. 背景

本件特許にかかる発明

クレーム1:化合物aおよび化合物bを含有する冷却剤用液状組成物。

先行技術文献(D5)の開示

クレーム4:化合物Aおよび化合物Bを含む、圧縮冷凍に使用するための流体組成物。

クレーム7:前記化合物Aは化合物aであるクレームに記載の流体組成物。

クレーム8:前記化合物Bは化合物bであるクレームに記載の流体組成物。

II. 論点

D5はクレーム7およびクレーム8の組合せを開示するか。

III. 欧州特許庁の審判部の結論

D5はクレーム7およびクレーム8の組合せを開示しない。したがって本件特許のクレーム1の対象は新規である。

IV. 判決文の抜粋

Entsprechend der ständigen Rechtsprechung umfaßt der Offenbarungsgehalt einer Patentschrift jedoch nicht die Kombination von Einzelmerkmalen, die in separaten abhängigen Ansprüchen beansprucht werden, es sei denn, ihre Kombination findet eine Stütze in der Beschreibung (s. T 42/92, Nr. 3.4 der Entscheidungsgründe).

Im vorliegenden Fall hängen Anspruch 7 und 8 jeweils von Anspruch 4 ab, nehmen aber in keiner Weise Bezug aufeinander, und in der Beschreibung findet sich auf Seite 3, Zeilen 31 bis 33 lediglich ein allgemeiner Hinweis, daß ein Pentaerythritoltetraester eines Gemischs aus Alkylcarbonsäuren mit 7 bis 9 Kohlenstoffatomen zu bevorzugen ist, ohne daß angegeben wäre, ob ein solcher Ester als Schmiermittel für Fluorkohlenwasserstoff- oder für Chlorfluorkohlenwasserstoff- Kältemittel geeignet ist. Da also eine Kombination des Gegenstands des Anspruchs 7 mit dem des Anspruchs 8 keine Stütze in der Beschreibung findet..

和訳:
確立された判例によれば、特許公報の開示内容には、その組合せが明細書によって支持されない限り、別々の従属クレームで特定された個々の特徴の組合せは含まれない(T 42/92, point 3.4 of the grounds for decision参照)。

本件では、クレーム7および8は、それぞれクレーム4に従属するが、互いに何ら従属・引用していない。また本件明細書においても、3頁31行〜33行に、炭素原子数7〜9のアルキルカルボン酸の混合物のペンタエリスリトールテトラエステルが好ましいとの一般的言及があるだけで、かかるエステルがハイドロフルオロカーボン用潤滑剤又はクロルフルオロカーボン用潤滑剤として適しているかどうかは示されてない。したがってクレーム7の主題とクレーム8の主題との組合せは、明細書において何の裏付けも見いだせない。

V. 解説

以前の記事「欧州では単従属クレーム同士を組合せる補正が新規事項の追加と判断されることがあります」で欧州特許庁は単従属クレーム同士を組み合わせる補正を新規事項の追加と判断することがあると紹介しました。欧州特許庁ではこの補正の判断基準が新規性の判断の際にも適用されます。つまり1の先行技術文献にクレームされた発明の全ての特徴が開示されていても、それらの特徴の組合せが当該先行技術文献における特定の実施形態または実施例で明示されていなければ新規性が認められ得ます。

このため特許権者および出願人の立場からは、仮にクレームの特徴が全て1つの先行技術文献に開示されていた場合であっても、特徴の組合せが明示されていなければその旨を主張して新規性を確立することができます。

一方で異議申立人の立場からは、クレームされた発明の新規性を攻撃するには、クレームされた発明の全ての特徴の組合せが1つの実施例または実施形態に開示されている文献を準備することが好ましいです。

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