短編小説 〇マゾンが特許事務所を飲み込む日

〇マゾンが外国出願仲介ビジネスに参入してきたらどうなるだろうという妄想を短編小説にしてみました。突っ込みどころも多いのであくまでフィクションとしてお読みください。

 
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202×年大晦日 

自宅の書斎にて今年最後となる意見書および補正書を完成させる。厳しい納期だったが〇マゾンから指定された期間内に納品するができた。これで〇マゾンからの評価が下がることは何とか免れそうだ。

ふとスマートフォンを見ると一足先に帰省した妻から実家ではしゃぐ子供達の写真が送られていた。これはお義父さんもお義母さんも大変だろうな。。。

「仕事が終わったので、今からそちらに向かいます。予定通りの新幹線に乗れそうです」

そうメッセージを送ると、Uberで捕まえたタクシーに乗り込み新横浜駅に向かった。

今年ももうおしまいか。。。。新横浜駅へ向かうタクシーの中色々な思いが頭をめぐる。独立してもう2年か。。。自分が働く特許業界もすっかり変わってしまったものだ。。。。

 オンライン小売りの大手の〇マゾンが特許業界に参入したというニュースを聞いたのは4年前のことだ。「〇mazon PCT」との名のサービスの下、これまで主に国内の特許事務所を通してなされていたPCT移行業務をサポートするためのプラットフォームを提供するとのことだ。当時の私はこのニュースの重要性を全く理解していなかった。現地代理人とのやり取りに使えそうだな程度の認識しかなかった。

なんと浅はかだったのであろう。

影響が表れたのは〇mazon PCTがリリースされて半年後のことだった。まず当時所属していた事務所が担当していた内外業務が目に見えて減り始めた。気になってクライアントに問い合わせてみたところ今後〇mazon PCT経由で現地代理人とやり取りするこで今後は内外案件の依頼は無いとのことだった。茫然とした。

そこで初めて危機感を感じ、〇mazon PCTのサービスの詳細を調べた。血の気が引いた。

画期的だったのはオープンなプラットフォームだ。これまで取引のあった代理人であっても〇mazon PCTのプラットフォームに組み込めるという。なるほどこれはこれまで似たようなPCT移行のプラットフォームサービスを提供していた会社とは一線を画している。また各国の審査状況、OA対応期限、引用文献などの情報が全てクラウドで管理されリアルタイムで確認できる。極めて品質の高い機械翻訳付きの現地代理人とのコンタクトフォームも備わっている。さらに衝撃的なのはその値段だった。PCTの移行手数料は1国あたり現地代理人の費用も含めて500ドルという。しかもどの現地代理人を選んでも値段は一律だ。なんでオープンなプラットフォームでこの低価格を提供できるんだ。太刀打ちできるわけがない。

水は高きから低きへ流れる。慎重で知られる日本企業もそのコストの安さと利便性の高さには抗えなかったようだ。当時所属していた特許事務所は内外業務を失った。

次に影響を感じたのはこれまで海外の代理人から来ていた外内の依頼が〇mazon PCT 経由で来るようになった時だ。少なくとも外内業務はこれまで通りと思っていたのだが、ここでも〇マゾンの恐ろしさを知ることになる。

出願手続、審査請求、OAの転送、庁費用の納付などの事務手続き一切は〇mazon PCTのアルゴリズムによって自動化されるため、事務作業にかかる費用は請求できないとのことだ。唯一請求できるのは弁理士によるOA対応の費用のみ。移行費用一律500ドルという安さの秘密はここにあったのだ。内外業務を失った当時の事務所にとっては反論の余地など残されていなかった。多くの特許事務所では大量の事務員が余ってしまった。

OA対応をする弁理士に対しても風当りは強くなった。〇mazon PCTによって弁理士の処理速度、ミスの頻度、査定までの時間、値段、対応の良さなどのパフォーマンスが数値可され、〇マゾンで閲覧可能になった。弁理士は〇マゾンが提供する多くの商品のうちの1つとなったのだ。数値は無情だ。パフォーマンスの低い弁理士の下には仕事が来なくなってしまった。

余剰事務員および余剰弁理士を抱えた多くの事務所が廃業を迫られた。当時所属していた事務所を去り〇マゾンから直接仕事を請け負う形で独立したのはそのころだ。これまでの業界の常識はわずか2年の間にあっけなく崩れ去った。〇mazon PCTはその後パリ経由出願そして国内出願までにもサービスの幅を広め留まることを知らない。似たようなサービスを提供していた会社もあったが、〇マゾンがプラットフォームの覇者となった後はいつの間にか消えていた。

〇mazon PCTの出現によって待遇が下がった弁理士達が〇マゾンを呪った。しかしそれは間違いだと思う。対抗できるサービスを構築できなかった我々弁理士が悪いのだ。互いにライバル視するのではなく出願人を中心とした業界全体の利益を考え協力していればこうも容易く覇権を奪われることはなかったはずだ。我々はそれを怠ったのだ。呪うべきは自らの怠慢だ。〇マゾンを呪うのは間違っている。

しかも社会全体としてみるとむしろプラスなことが多い。

企業は〇mazon PCTの利用によって得られた余剰資金でさらに多くの出願をするようになり、特許業界のパイも大きくなった。ビジネスチャンスも増えた。

我々弁理士だって翼を捥がれたわけではない。

〇マゾンから評価は厳しいがフェアだ。〇マゾンから高評価を得ておけば新規クライアントの獲得のための営業活動は必要ない。今年はタイムチャージを10%を上げたにも関わらず去年以上の依頼が来るようになった。〇マゾンが事務手続きを担ってくれるようになったお蔭で私のような新参個人弁理士であっても歴史ある大手事務所と同じ土俵で戦える。

またこれまで現地代理人を介して出なければコンタクトできなかった海外クライアントと直接コンタクト取れるようになったことで、よりクライアントが求めるサービスを提供できるようになったのも事実だ。予想外だったのは〇mazon PCTのプラットフォームの枠組みに入りきらない係争関係の仕事も増えてきたことだ。

最近は一人では業務がきつくなって来たので来年は特許技術者を採用する予定だ。

この世に発明が生まれる以上、我々弁理士は形を変えれど価値を提供できるはずだ。逆風を追い風に変え高く飛んでみせる。

ようやく新横浜駅に着いた。お土産は何がよいかな?お義母さんはレーズンサンドが好きだったな。お義父さんには日本酒でよいか。

新幹線内のプチ一人忘年会用にハイボール、チーカマそして味付けホタテを買う。ご機嫌な忘年会になりそうだ。

そして新幹線に乗り込む。今年も良い年だった。来年もより良い年となりますように。

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