欧州の特許業界に特化したオンライン情報プラットフォームであるJUVE Patentが「UPC Statistics: 60% Success Rate Patentees, Rapid, and Further Key Insights」という記事で統一特許裁判所(UPC)の方向性を知るうえで需要なデータを公開しました。
以下に私が個人的に重要と思うデータの一部を抜粋します。
特許権侵害訴訟事件のOutcome(第一審)
上記グラフからUPCの第一審における侵害容認率つまり特許権者の勝訴率は57%でした。欧州で最もプロパテントと言われるドイツでさえ特許権侵害訴訟における勝訴率が5割強であることを考慮すると(過去の記事「欧州主要国の特許侵害成立率」をご参照ください)、この57%という数字はかなり特許権者にフレンドリーと言えます。
無効訴訟事件のOutcome
上記グラフからUPCの第一審における特許無効率は36%でした。一方でドイツの連邦特許裁判所における欧州特許の無効率は45%です(過去の記事「ドイツにおける欧州特許およびドイツ国内特許の無効率に関する研究」をご参照ください)。
さらにUPCでの特許完全維持率は37%でしたがこれは欧州特許の異議における特許完全維持率の32%よりも高いです(過去の記事「欧州特許庁の異議申立てに関する統計データ②」をご参照ください)。
この数字はUPCの無効訴訟では特許が維持されやすい、つまり特許権者にフレンドリーであるを示唆します。
まとめ
まだUPCにおける件数が少ないため結論を出すには少々時期尚早ですが、これらのデータはUPCが侵害訴訟だけでなく無効訴訟においても特許権者にフレンドリーであること示唆します。
したがって欧州特許の特許権者の立場としては国内裁判所でなく統一特許裁判所で争うほうが好ましいと言えます。一方で欧州特許を取り消したい競合他社の立場としてはUPCでは特許を無効にしずらいので、欧州特許庁における異議や各国における無効手続きを活用することも検討した方がよいかもしれません。