Jetro主催セミナー「いまさら聞けない欧州単一特許制度」で頂戴した質問の回答

5月24日に開催されたJetro主催のセミナー「いまさら聞けない欧州単一特許制度」で頂戴した未回答のご質問に対する回答を公開します。重複したご質問は省略いたしましたのでご了承ください。

Q1. UPC第一審裁判所中央部の支部について、ロンドンに予定されていた化学系の支部としてイタリアやオランダの都市が立候補していると聞きますが、確定するのはいつ頃でしょうか。UPC運用開始までの裁判所設備等の準備期間を考えるともう決定しなければならないと思われますが。

A. ロンドンに予定されていた化学系の支部の機能はとりあえず一時的にパリまたはミュンヘンの中央部に吸収されることになります。UPC協定の発効後に新たな中央部の支部が設立されるか否か、そして仮に設立されるのならどこに設立されるのかが議論されると思われます。
https://www.unified-patent-court.org/locations
https://www.juve-patent.com/news-and-stories/people-and-business/majority-of-patent-community-still-in-favour-of-upc

Q2. 欧州単一効力特許の「全文翻訳は権利解釈に影響しない」とのことですが、そうすると第三者特許に対する侵害/非侵害の判断には、(元のEP明細書が独/または仏語の場合)英訳クレーム・明細書ではなく、元の言語のクレーム・明細書を確認する必要があるということでしょうか?

A. はい。EPC70条に従い、ドイツ語またはフランス語のクレームおよび明細書が権利範囲を確定します。

Q3. 英語EP特許のEU公用語への明細書全文翻訳の提出の期限は単一効特許の申請と同じですか?

A. はい。全文翻訳は単一効申請の申請書に添付します。したがって単一効申請と同時に提出します。
Regulation (EU) No 1260/2012第6条(1)

Q4. 親出願と分割出願でUPと国内特許を両方取得したい場合、権利範囲は重複しても良いのでしょうか?

A. はい。両者のクレームが同一でない限り権利範囲は重複していても問題ありません(T877/06)。

Q5. NationalルートとUPが両立する場合、それぞれの特許の管轄は各国裁判所とUPCといったように別れるという理解でOKでしょうか?(例えば、UPCで無効判決が出ても、ドイツ国内では有効判決が出る…というケースもある?)

A. はい。このケースではUPCで無効判決が出ても、ドイツ国内では有効判決が出ることはあり得ます。

Q6. 同じ基礎出願に基づく欧州単一効特許とドイツ国内特許が両立できるとことですが、2つの権利の関係はどうなるのでしょうか?

A. 両特許は完全に独立した別の権利として取り扱われます。
InPatÜGのArt.II、§8

Q7. 欧州特許は事後的に単一効特許に変更できないとのことですが、既存の欧州特許はオプトアウトしないと単一効特許になるのでは無いのでしょうか?

A. いいえ。Opt Outは単に既存の欧州特許に関するUPCの管轄権を除外するものです。Opt Outしなかったからといって既存の欧州特許が欧州単一効特許に変更されるわけではありません。

Q8. 例えば、ドイツにおいて、欧州単一効特許と通常の国内出願が同じ発明をクレームしていた場合、ダブルパテントの問題が生じることはありますか?

A. いいえ。ダブルパテントの問題は生じません。
InPatÜGのArt.II、§8

Q9. 出願人の順番は、出願後に変更可能ですか?

A. はい。出願がEPOに係属している限り変更可能です。

Q10. 財産権としての特許の取り扱いで、出願人が複数の場合で、第1出願人が日本、第2出願人がフランスに事業所がある場合、どの国の法律が適用されますでしょうか。

A. この場合フランスの国内法が適用されます。詳しくは過去の記事「欧州単一効特許に基づくライセンス契約または譲渡契約にはどの国の法律が適用されるか?」をご参照ください。

Q11. 欧州単一効特許取得のための出願の審査は従来通り、EPOが審査するとのことですが、実体的審査は従来の審査基準と変わらないということでよいでしょうか?

A. はい。変更ありません。

Q12. 単一効特許の適用法について、日本の出願人のとき、欧州に子会社があっても(別法人であれば)ドイツ国内特許として扱われる との理解で良いでしょうか?

A. はい。ご理解の通りです。

Q13. 保護を求める国が、何ヶ国以上であれば欧州単一効特許の方がお得ですか?だいたいで良いので教えてください。

A. 保護を求める国が4カ国以上であれば欧州単一効特許のほうが維持コストが安くなります。
https://www.epo.org/law-practice/unitary/unitary-patent/cost.html

Q14. (UPC制度ではなく)単一効特許の申請はいつ頃から可能となる見込みでしょうか?

A. EPOはドイツによる批准が完了した日から事前単一効申請(early request for unitary effect)を受理します。
https://www.epo.org/law-practice/unitary/unitary-patent/transitional-arrangements-for-early-uptake.html

Q15. 先出願、分割出願で、それぞれ単一効特許か従来型特許の選択可とのお話がありました。ただ、UPC HPのOpt-out Scheme 4番に、オプトアウトは後続出願に適用される、とあります。これは、何も手続をしなければ、後続は先出願のオプトアウトが継承され、別途、後続出願で単一効申請すれば、単一効申請が優先されて認められる、ということでよろしいでしょうか。 4.When an opt-out is registered for a European patent application, will it also apply to the European patent later granted?If an opt-out has been notified and registered with respect for an application for a European patent, the opt-out continues to apply to the relevant European patent, once granted.https://www.unified-patent-court.org/faq/opt-out

A. いいえ。親出願でなされたOpt Out申請は子出願には継承されません。UPC のHPのOpt-out Scheme 4番は欧州特許出願におけるOpt Outが、登録後の欧州特許に継続する旨を明記しているだけで、親出願におけるOpt Outが、子出願に継承されることを示すものではありません。

Q16. 将来欧州単一効特許を国ごとに取り下げることや、それにより維持費用が減額される可能性はあるでしょうか。

A. いいえ。この少なくとも現時点ではこの可能性はありません。
Regulation (EU) No 1257/2012第2条

Q17. Opt-outを勧める欧州弁理士が多いのですが、この国での侵害訴訟はあまりにも権利者に不利でUPCで提訴した方が良いかも知れないような国はありますか?

例えばオランダでは侵害訴訟における特許権者の勝訴率が低いのでUPCで提起した方が勝訴する確率が高くなるかもしれません。
http://stlr.stanford.edu/pdf/patentlitacrosseurope.pdf

Q18. Opt-outは誰でもできるのですか?

A. はい。Opt Outは特許権者の委任状があれば誰でも申請できます。
Rule 5. 3 (b) UPC Rule of Procedure

Q19. UPC発効後に、欧州出願が特許査定になり、その際に単一効申請をしなかった各国特許に対しても、他者はUPCによる訴訟提起が可能ということなのでしょうか?

A. はい。Opt Out申請がされなかければ他者はUPCに取消訴訟を提起することができます。

Q20. 名義変更前の特許については、名義変更を行ってからOpt-outを実施する方が良いでしょうか?名義変更をせずにOpt-outした場合、問題になることがありますでしょうか?

A. 名義変更をせずにOpt-outした場合、UPCからOpt Outでの名称とRegisterでの名称が異なることを指摘され、Opt Outの権限を有することを証明することを求められる可能性があります。したがって当該指摘を避けたければ名義変更してからOpt Outすることをお勧します。

Q21. OUT OUTの移行期間7~14年という、この年数の根拠は何かありますか(全文翻訳の場合は、機械翻訳の質が向上するまでとのことでしたが)。

A. UPC協定83条(1)および(5)が根拠になります。Opt Outが可能な移行期間はユーザとのヒアリング、各国裁判所で提起された欧州特許に関する訴訟の数などに基づいて管理委員会が延長するか否かを判断します。(UPC協定83条(5))。

Q22. Opt Outに必要な特許権者のE Mailアドレスとは、具体的に誰のメールアドレスになるのでしょうか。

A. これに関しては具体的な情報がありません。ただ第18版草案版のRules of Procedure of the Unified Patent Court第5条3(a)によればE Mailアドレスは必須ではありません。

Q23. Opt-outの代理人費用(10-200ユーロ/件)の「件」は、欧州特許単位ですか? それとも 有効化された各国特許単位ですか?

A. 欧州特許単位になります。

Q24. 係属中の公開済み欧州特許出願に対してオプトアウトが可能とのことですが、どのタイミングでオプトアウトするのが適切でしょうか?

係属中の出願については査定後に欧州単一効特許となる可能性もあるので、査定後に既存の欧州特許として各国に有効化することが決まってからOpt Outするか否かを検討するので十分かと思います。

Q25. Opt out は出願中でも宣言できると聞いたことがあるのですが、正しいでしょうか? 出願したら直ちにOpt outするような実務は可能でしょうか?

UPCの申請書のテンプレートでは公開番号を記載する欄があるので、公開後はOpt Out申請をすることができます。一方で出願後直ぐにOpt Outできるかは現時点では不明です。「UPCに対するOpt Out申請を外部に依頼する際に必要な情報」をご参照ください。

Q26. 第三者の申請によってされたOpt Outによって不利益を被った場合、原則それを監視していなかった権利者が悪いということになりますか?

UPCの公式WEBサイトでは自社の欧州特許のOpt Out状況をチェックすることを奨励しているので、それを怠った場合、権利者の自己責任と可能性はあります。
https://www.unified-patent-court.org/faq/opt-out

Q27. 登録済の案件はサンライズ期間を過ぎると自動的に統一特許となるのでサンライズ期間以後はOPT-OUT不可という理解でいいでしょうか?一方出願係属中の案件はサンライズ期間後も登録まではOPT-OUT可能と考えていいでしょうか?

A. いいえ。サンライズ期間はあくまでOpt Out申請の受理が開始される期間です。サンライズ期間の修了後であってもUPCに訴訟が提起されていない限りOpt Out申請は可能です。
UPC協定83条(3)

Q28. 権限の無い第三者からのOpt Outがあった場合で、正当な権原を有する者が、Opt Outの取消し手続きを行った場合、再度Opt Outしたいと思っても、できなくなるのでしょうか?

A. この場合、最初のOpt Out申請は無効として取り扱われるので、再度のOpt Out申請は可能なはずです。
Rule 5.5 RoP

Q29. ドイツの批准寄託の時期は、事前に時期が周知されるのでしょうか?事後通知でしょうか?

A. EPOはドイツの批准寄託の日をWEBサイトで公開するとしています(https://www.epo.org/applying/european/unitary/unitary-patent/transitional-arrangements-for-early-uptake.html)。またドイツの批准寄託の日からEPOで特許査定遅延請求等の経過措置が導入されることを鑑みると、おそらくドイツの批准寄託の日は事前に通知されるものと思われます。

Q30. ナショナルルートで各国で権利化あるいは、EP特許→オプトアウトのどちらが手続き的にはやりやすいあるいは費用的なメリットがあるでしょうか。多くの国で権利化する医薬品の特許の場合を例として教えて頂けますと幸甚です。

A. 例えば全EPC加盟国38カ国で権利化を希望する場合す、ナショナルルートを選択したのでは38ヶ国での出願および審査があり管理負担および費用負担が甚大になります。したがって権利化をしたい国が多ければ費用および管理負担の観点からEPOルートを選択した方が好ましいです。

Q31. 欧州単一効特許において、ナンバリングは特に変化なく、EP番号が今のまま積み重なっていく、ということで宜しかったでしょうか?

A. はい。ご理解の通りです。

Q32. 権限ない第三者からオプトアウトが取り消された場合、救済措置はありますでしょうか。また、そのような措置の整備は検討されているのでしょうか。

A. はい。現在そのような措置の整備が検討中です。
https://www.unified-patent-court.org/faq/opt-out

Q33. 既存の欧州特許につき、移行期間中にオプトアウト申請を行わなかった場合、UPCの管轄下に入ることになると思われますが、その場合、年金納付は有効化した各国で必要であるものの、侵害訴訟等の管轄はUPCとなるという理解でよろしいでしょうか。

A. はい。ご理解の通りです。

Q34. 移行期間終了後に単一効特許ではなく、各国有効化したとして、UPCで裁判される場合、その判断の法律としては当該各国の法律によるのでしょうか。

A. いいえ。この場合各国の法律ではなくUPC協定およびEPCが適用されます。
UPC協定25~27条、65条

Q35. 既存の欧州特許で、英国とスペインのみで有効化していた場合には、両国ともそもそもUPCの管轄外なので、オプトアウトは不要との理解で正しいでしょうか?

A. はい。ご理解の通りです。

Q36. 現状、EP特許として登録されている特許(例えば、ドイツ・イタリア指定して登録)がある場合、管轄だけがUPCになるとのことですが、無効審判請求や侵害訴訟は各国特許ごとに申請し、審理はUPCで行われる…という理解でOKでしょうか?(UPではないので、セントラルアタックはされない)

A. いいえ。無効審判請求や侵害訴訟もUPCが管轄します。したがって単一効特許でなくともセントラルアタックがされるということです。

Q37. 移行期間後の欧州特許は統一特許裁判所の管轄になる場合、統一裁判所が出した判例の拘束力が及ぶということでしょうか?例えば、均等などの判断は国によって異なりますが、統一裁判所の判断が規範となる可能性があるという事でしょうか?

A. 移行期間終了後は、Opt Outされていない欧州特許については全件UPCの管轄になります。したがってUPCが出した判例が適用されます。一方で各国ナショナルルートで取得された国内特許については国内裁判所の管轄になります。この国内裁判所がUPCの規範に従うか否かは国内裁判所次第になります。

Q38. Opt Out申請者は把握できるのでしょうか?

A. はい。権限の無い第三者からOpt Out申請があった場合にその申請を修正できることを鑑みると申請者は把握できると思われます。

Q39. 第三者がオプトアウト/オプトアウトの取下げが可能とのことですが、欧州代理人以外の者は委任状が必要とのことなので、ある程度その可能性は低いと理解しますが、正しいですか?

A. UPCが委任状の内容までチェックするのであれば確かに可能性は低いと思います。しかし現時点ではUPCがどこまで詳細にチェックするのかが不明です。

Q40. 欧州特許の全文翻訳は機械翻訳でもOKですか?

REGULATION (EU) No 1260/2012の(12)には、「translations should not be carried out by automated means and their high quality should contribute to the training of translation engines by the EPO.」と機械翻訳の使用の禁止を明言しています。一方でおそらくEPOは全文翻訳をチェックすることはないので仮に機械翻訳を使用したとしても発覚することは無いかと思います。機械翻訳の使用は自己判断および自己責任でお願いいたします。

Q41. 欧州単一効特許の更新時毎に批准国で拡大されることも無いですか?

はい。欧州単一効特許の地理的範囲は登録時の批准国に固定されます。その後拡大されることはありません。
Article 18(2) Regulation (EU) No 1257/2012

Q42. UPCのメリットとしてイタリアやベルギーでのトルペード対策を挙げている欧州弁理士の方の記事を見たことがあり、これについて先生にご見解おありでしたら御教示頂ければと思います。

既存の欧州特許でも現在ではイタリアやイギリスのトルペードが問題となっていることはほとんど聞きません。したがって私個人的にはトルペード対策がUPCのメリットとは思いません。

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