異議申立人の数が増えると特許取消率が上がるか?

I. 背景

先日の欧州知財ウェビナー「欧州特許庁における異議 特許権者編」で、参加者の方から「異議申立人が複数の場合は特許取消率が上がるのか?」というご質問をいただきました。

そこで欧州特許庁の異議において異議申立人の数が異議の結果に影響を及ぼすかを調べてみました。

II. 方法

使用したツール:

PATSTAT EP Register

母集団:

2014~2016年に申し立てられた異議のうち既に結果が確定しているケース(審判未請求または審判請求後審決が確定したケース)

III. 結果

IV. 考察

上記グラフに示されるよう異議全体の平均(Opposition total)では、特許取消率が35%(Patent revoked)、補正された形での特許維持率が31%(Patent amended)そして査定されたままの特許維持率が23%(Opposition rejected)でした。一方で異議申立人のが2名(社)の場合(Opponent Nr: 2)、特許取消率が49%、補正された形での特許維持率が30%そして特許の完全維持率が12%、さらに異議申立人のが3名(社)の場合(Opponent Nr: 3)、特許取消率が63%、補正された形での特許維持率が17%そして特許の完全維持率が7%となります。

このように欧州特許庁の異議の結果は異議申立人の数によって変動していることが分かります。より具体的には異議申立人の数が増えることで特許取消率が上がり、特許維持率が下がる傾向があります。

この結果は私の個人的な経験とも一致します。実際に異議申立人が複数いる場合は、特許権者の代理人として反論すべき論点が増えるので特許を守るための労力が増えます。また異議申立人が複数いる場合は、仮に異議において特許を守り切ったとしても、その後審判が請求される確率も高いです。このような理由から異議申立人が複数いる場合、異議申立人の数が1名の場合の比較して、特許取消率が上がるのは当然と言えます。

したがって自己の欧州特許に対して複数の異議申立人から異議を申し立てられた場合は、複数の弁理士からなるチームで対応してもらったり、他の弁理士にセカンドオピニオンを求めてみたりと複数の異議申立人に対抗できるマンパワーを確保することをお勧めします。

V. 謝辞

本分析の着想およびデータは学習院大学 経済学部経営学科 教授の和田哲夫先生からご提供いただきました。和田先生、貴重なアドバイスを誠にありがとうございました。

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