日本ではある物の未知の属性を発見し、この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明は用途発明として新規性が認められます(審査基準 第III部 第2章 第4節 3.1.2)。
例:
本願発明:特定の4級アンモニウム塩を含有する船底防汚用組成物
先行技術:特定の4級アンモニウム塩を含有する電着下塗り用組成物
日本の審査基準によると、上記例の場合、(i)「船底防汚用」という用途が、船底への貝類の付着を防止するという未知の属性を発見したことにより見いだされたものであり、(ii)その属性により見いだされた用途が、従来知られている範囲とは異なる新たなものであれば仮に両組成物が同一だったとしても「船底防汚用」という用途限定も含め発明が認定され新規性が認められます。
一方で欧州特許庁ではこのような用途限定は医薬用途を除き単にその用途に適したものとしか判断されません(GL F-IV, 4.13.1)。つまり物の発明における用途限定の効力が日本ほど強くありません。このため上記例の本願発明は以下のロジックで新規性が否定されます。
先行技術には電着下塗り用ではあるものの本願発明と同じ組成物が開示されている。
↓
同じ組成物である以上船底防汚用にも適しているはず。
↓
したがって先行技術も特定の4級アンモニウム塩を含有する船底防汚用に適した組成物を開示しており、本願発明は新規性を有さない。
このように欧州特許庁では全く異なる用途の先行技術が引用され、用途発明の新規性が否定されることがよくあります。
このような場合、「Use of XX for YY」といった書き出しで始まるUSEクレームに書き換えることが有効です。USEクレームでは物の発明と異なり用途に限定力が認められるからです。このため用途発明クレームを単にUSEクレームに書き換えるだけで何ら他の構成を追加することなく新規性を確保することができます。
用途発明クレームをUSEクレームに書き換えることは難しくなく、通常は新規事項の追加と指摘されることもありません。
例えば上記例の「特定の4級アンモニウム塩を含有する船底防汚用組成物 Antifouling composition comprising a specific quaternary ammonium salt.」は、
特定の4級アンモニウム塩を含有する組成物の船底防汚のための使用
Use of composition for antifouling comprising a specific quaternary ammonium salt.
といったUSEクレームに書き換えることができます。
また少なくともドイツではUSEクレームには物の発明と同等の権利範囲が認められます(過去の記事「Useクレームの権利範囲」をご参照下さい)。
このため欧州特許庁における用途発明の権利化の際にはUSEクレームの活用を積極的に検討することをお勧めします。
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