欧州では実験データの後出しが認められます

欧州では特に化学系の発明の進歩性の議論の際に出願当初の明細書当には記載されていなかった実験データを追加することがよくあります。しかしこの実験データの後出しは一定の要件を満たさなければ認められません。

実験データの後出しに関する欧州特許庁審判部の代表的な判例であるT1329/04には、実験データの後出しが認められる要件として以下のように規定しています。

The definition of an invention as being a contribution to the art, i.e. as solving a technical problem and not merely putting forward one, requires that it is at least made plausible by the disclosure in the application that its teaching solves indeed the problem it purports to solve. Therefore, even if supplementary post-published evidence may in the proper circumstances also be taken into consideration, it may not serve as the sole basis to establish that the application solves indeed the problem it purports to solve.

「単に技術的な問題を提示するだけでなく技術的な問題を解決すること、すなわち先行技術に対する貢献であるという発明の定義は、その発明が解決しようとする問題を実際に解決していることが少なくとも信頼できるように出願に開示されていることを要求する。つまり、適切な状況下において公開後の補足的な証拠を考慮に入れることができるとしても、補足的な証拠は本願が解決しようとする課題を実際に解決していることを立証する唯一の根拠とはなってはならない。」

つまりT1329/04は、追加実験データがサポートしようとする効果は、信頼できる程度(plausible)に出願当初書面に開示されていなければならないとしています。

それではどのような場合に効果がplausibleと判断されるのでしょうか?

以下に場合を分けて説明します。

1.出願当初明細書に効果の記載も効果をサポートする実施例もない場合

この場合、効果がplausibleと判断されることはまずありません。すなわち実験データの追加が認められることはまずありません(T0415/11)。

例:
出願当初明細書: 本願発明の化合物は効果的に胃潰瘍を抑えることができる。
(胃潰瘍治療薬としての効果の記載、実施例はあるが頭痛薬に関する記載は一切なし)
追加実験データ: 本願発明の化合物の頭痛抑制作用に関する実験データ

2.出願当初明細書に効果の記載はあるが効果をサポートする実施例がない場合

この場合はケースバイケースの判断がなされます。出願当初明細書に効果をサポートするデータが無くとも、先行技術、通常の一般的知識(Common. General Knowledge)から推測できる場合はplausibleと判断され実験データの追加が認められます(T294/07, T108/09, T2134/10, T45/12 )。

しかし先行技術または通常の一般的知識から主張されている効果が推測できない場合は、効果がplausibleではないと判断され実験データの追加が認められません(T1329/04, T1791/11 )。

例:
出願当初明細書: 本願発明の化合物は効果的に胃潰瘍を抑えることができる。
(胃潰瘍治療薬としての効果の記載はあるが実施例はない)
追加実験データ: 本願発明の化合物の胃潰瘍治療薬としての実験データ

3. 明細書に効果の記載も効果をサポートする実施例もある場合

この場合はよほど実施例に対してクレームの範囲が広すぎない限りは効果がplausibleであるとして実験データの使いが認められます(T778/08、T2371/13)。

例:
出願当初明細書: 本願発明の化合物は効果的に胃潰瘍を抑えることができる。
(胃潰瘍治療薬としての効果の記載、実施例はあるが実施例が少ない)
追加実験データ: 本願発明の化合物の胃潰瘍治療薬としての実験データ

まとめ

このように欧州では出願当初明細書に効果に関する記載があれば、実施例が無くとも実験データの後出しが認められることがあります。効果をサポートする実施例が出願当初明細書にあれば効果のplausibilityが高まるので実験データの後出しが認められる可能性はさらに上がります。

このため欧州には出願時には最低限の実施例で効果のPlausibilityを確保しておいて、その後必要に応じて実験データを追加するという出願戦略を採用している企業もあります。

日本企業による欧州特許出願では明細書で主張された効果が実施例でサポートされていることが多いので、多くの場合に実験データの後出しが認められます。したがって必要に応じて積極的に実験データの後出の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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