マタニティハラスメントの話ではありません。ちゃんとした特許の話です。
日本では化合物や組成物が避妊薬として有効な場合、仮にその化合物や組成物自体が公知であったとしても避妊薬としての用途が非公知であった場合は医薬発明として特許性が認められ得ます。
実際に、避妊組成物に関する日本特許は多数存在します(例えばJP5484646B2)。
しかし欧州特許庁では避妊薬としての用途が非公知であってもその化合物や組成物自体が公知であれば新規性が認められません。
ここで「欧州特許庁でも医薬用途に新規性を認めるMedical Use Claimがあるじゃないか!」と思われる方もいるかもしれません。
確かに欧州特許庁でも疾患の治療に用いられれる化合物や組成物は、化合物、組成物それ自体が公知であったとしても治療用途が非公知であればEPC54条(4)および(5)の規定に基づきMedical Use Claimとして新規性を確保できます。ここで重要なのが新規性が認められるのはあくまで疾患の治療の用途が新規な場合です。
そして、欧州特許庁は、以下のように妊娠を疾病とは考えていません。
Case law of the Boards of Appeal 10th Edition I.B.4.5.1 e):
In T 74/93 (OJ 1995, 712) the claimed invention related to alicyclic compounds and their contraceptive use. The board took the view that a method of contraception was not excluded per se from patentability under the aspects as stipulated in Art. 57 as well as in Art. 52(4), first sentence, EPC 1973 (now Art. 53(c) EPC). Pregnancy was not an illness and therefore its prevention was not in general therapy according to Art. 53(c) EPC (see also T 820/92, OJ 1995, 113; T 1635/09, OJ 2011, 542).
和訳:
T 74/93(OJ 1995, 712)では、クレームされた発明は脂環式化合物およびその避妊用途に関するものであった。審判部は、避妊方法は、EPC 1973第57条および第52条(4)第1文(現EPC第53条(c))に規定される観点から、それ自体として特許性から除外されるものではないとの見解を示した。妊娠は疾病ではなく、したがってその予防は、一般にEPC第53条(c)にいう治療には該当しない(T 820/92, OJ 1995, 113;T 1635/09, OJ 2011, 542も参照)。
このため避妊、すなわち妊娠の予防は疾患の治療には該当せず、避妊薬にはMedical Use Claimが適用できません。
このように日本では運用上人体に薬理学的・生理学的作用がある化合物や組成物はには広く医薬発明の考えが適用されますが、欧州では人体に薬理学的・生理学的作用があるか否かではなく疾患の治療に用いられるか否かでMedical Use Claimの適否が判断されます。
つまり日本で医薬発明として特許性が認められた発明であっても、欧州特許庁で当然に Medical Use Claim として保護できるとは限らない点に注意すべきです。
