ドイツでは複数形の用語は単数も含むと解釈されます

侵害、非侵害の判断ではクレームの構成要素が単数であるか複数であるかが重要になることがあります。英語と同様にドイツ語でも単数と複数との区別があるので、ドイツ特許におけるクレームの構成要素が複数形で記されてる場合は、その構成要素が単数である形態がクレームの保護範囲から除かれると考えることもできます。しかしドイツでは複数形で示された用語は単数を含むと解釈されることもあります。

今回はこの複数形は単数も含むという解釈を示唆しているドイツ最高裁(Bundesgerichtshof、BGH)の判例Okklusionsvorrichtung(閉塞器具)事件(X ZR 16/09)を紹介します。

対象特許 EP 808138 Bのクレーム1

ストランド(braided strands)からなる金属布帛を含む折りたたみ可能な医療器具(60)であって、[…]
器具の対向する端部(ends)において、クランプ(clamps)(15)がストランドをクランプするように適用されていることを特徴とする医療器具。

 

イ号

論点

「器具の対向する端部(ends)において、クランプ(clamps)(15)がストランドをクランプする」にはクランプが1つの形態も含まれるか?

ドイツ最高裁の判断

「器具の対向する端部(ends)」という文言は、クランプを装置の対向する端部に配置することを規定しており、これは必然的に2つのクランプが存在しなければならないことを意味している。

判決文の抜粋:

“確かに「clamps」という用語も「ends」という用語もそれ自体は、それらの要素がどれだけの数存在しなければならないかについては何も述べいない。このため控訴裁判所の見解のようにこれらの用語を一般的な用語(Gattungsbegriffe)として解釈することも原則としては考えられる。しかし控訴裁判所は、「器具の対向する端部(ends)」という表現が、クランプが器具の対向する端部に取り付けられ、必然的に2つのクランプが存在しなければならないとしていることをことを十分に考慮しなかった。”

“Zwar sagt weder der Begriff ‘Klemmen’ (clamps) noch der Begriff ‘Enden’ (ends) für sich genommen etwas darüber aus, wie viele von ihnen vorhanden sein müssen; grundsätzlich ist auch eine Auslegung dahin denkbar, dass es sich um Gattungsbegriffe handelt, wie dies das Berufungsgericht im Ansatz zutreffend gesehen hat. Das Berufungsgericht hat aber nicht hinreichend berücksichtigt, dass mit der Formulierung ‘at the opposed ends of the device’ eine Festlegung dahin getroffen ist, dass Klemmen an den entgegengesetzten Enden der Vorrichtung angebracht werden sollen, und dass damit notwendigerweise zwei Klemmen vorhanden sein müssen.”

解説

本判決では結果として「器具の対向する端部(ends)におけるクランプ(clamps)」はクランプが1つの形態を含まない、つまり複数形は単数を含まないとの結論に至りました。しかし上記判決文の抜粋からも明らかなようにこの結論は「器具の対向する端部(ends)」における「対向する」という構造的な特徴が必然的に2つのクランプの存在を示しているという解釈に基づきます。

一方で「clampsという用語もendsという用語もそれ自体は、それらの要素がどれだけの数存在しなければならないかについては何も述べていない」や「これらの用語を一般的な用語(Gattungsbegriffe)として解釈することも原則としては考えられる」という判決文の抜粋は、ある用語が複数形で記されているという事実のみに基づいて単数を排除べきではないことを明示しています。

つまり「対向するXXs」や「隣接するXXs」といった必然的に2以上の存在を特定する構造的な特徴がクレームに含まれている場合を除いて、複数形で記載された用語は単数も含むと解釈したほうが安全です。

ドイツにおけるクリアランスの際に参考になれば幸いです。

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