ドイツでは発明に相乗効果があっても進歩性が否定され得ます

先日の記事「欧州では発明に相乗効果があれば進歩性はほぼ確実に認められます」では欧州特許庁が採用するProblem Solution Approachにおいては発明に相乗効果があれば進歩性がまず否定されないことを説明しました。

一方で先行技術に対する効果をあまり重視しない進歩性判断アプローチを採用するドイツでは仮に発明に相乗効果があったとしても、組合せ自体が容易であれば進歩性が否定されます。

今回は相乗効果が存在するにも関わらず進歩性が否定されたドイツ最高裁(BGH)のKosmetisches Sonnenschutzmittel事件(X ZR 68/99)を紹介します。

I. 背景

本件特許クレーム24

少なくとも1種の金属酸化物のナノ顔料と、少なくとも1種の脂溶性ポリマーとを含む化粧品用日焼け止め。

本件特許明細書

1001m未満の粒度を存する少なくとも一種の金属酸化物のナノ顔料と少なく とも一種の脂溶性濾過性ポリマーを、化粧品として許容しうる担体中で組み合せ ることにより、一定濃度のナノ顔料および濾過性ポリマーを含有する組成物では 、同一濃度および同一担体中てナノ顔料、または濾過性ポリマーのいずれか一方を含有する組成物の保護指数より実質的に大きい保護指数、特にUV−B保護指 数を得られることか分かった。

先行技術文献D1(WO 90/11067)

チタン酸化物のナノ顔料を含む化粧品用日焼け止め。チタン酸化物のナノ顔料を用いることで紫外線吸収能を確保しつつも溶液を透明にできる。

先行技術文献D2(FR 2657351)

ポリマーであり脂溶性のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は日焼け止めに好適に用いることができる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤はチタン酸化物と組合せで用いてもよい。

II. 論点

相乗効果を有する金属酸化物のナノ顔料と脂溶性ポリマーとの組合せは、進歩性を有するか?

III. ドイツ最高裁の判断

金属酸化物のナノ顔料と脂溶性ポリマーとの組合せは自明である。

IV. 判決文の抜粋

bb) Die Beklagte weist auch zutreffend darauf hin, nirgendwo im vorgelegten Stand der Technik finde sich ein Hinweis, daß ein derartiger synergistischer Effekt jemals beobachtet worden sei oder daß ein Auftreten eines solchen überadditiven Effekts hätte erwartet werden können. Gleichwohl kann im Streitfall ein solcher Effekt der erfindungsgemäßen Zusammensetzung die erfinderische Tätigkeit des Patentanspruchs 24 des Streitpatents nicht begründen.

Synergistische Effekte, die über die bloße Summenwirkung einer aus mehreren Stoffen zusammengesetzten Mischung hinausgehen, können als Anzeichen für erfinderische Tätigkeit gewertet werden, wenn sie für den Fachmann unerwartet und überraschend sind (…). Dies setzt bei der Kombination bekannter Stoffe allerdings voraus, daß Anhaltspunkte dafür vorliegen, daß die Kombination als solche nicht nahegelegt war. War die Kombination von zwei Wirkstoffen wie im vorliegenden Fall, dem Fachmann durch den Stand der Technik nahegelegt, vermag ein zusätzlicher, wenn auch unerwarteter und überraschender Effekt die erfinderische Leistung der Kombination jedenfalls dann nicht zu begründen, wenn – wie hier – für den Fachmann Anlaß bestand, von dem im Stand der Technik ausgelegten Maßnahmen Gebrauch zu machen. Da – wie dargelegt – die im Prioritätszeitpunkt neu gewonnenen Erkenntnisse zur Schädlichkeit von UV-Strahlen über den gesamten Bereich den Fachmann nach Möglichkeiten zu einer Verbesserung des Sonnenschutzes über das gesamte UV-Spektrum suchen lassen mußten, beschränkte sich die Leistung eher darauf, im Zuge dieser Suche von Kombinationsmöglichkeiten Gebrauch zu machen, auf die er im Stand der Technik hingewiesen worden war. Der von der Beklagten in den Vordergrund ihrer Argumentation gerückte unerwartete Effekt ist lediglich eine zwangsläufige Folge dieser durch die im Stand der Technik veranlaßten und durch ihn nahegelegten Kombination der im Streitpatent unter Schutz gestellten Maßnahmen; in einem solchen Fall kann auch ein auf einer solchen Kombination beruhender unerwarteter und überraschender Effekt eine erfinderische Tätigkeit allein nicht begründen.

和訳:
bb) 被告は、提出された先行技術文献のどこにも、そのような相乗効果が観察されたことや、そのような超加法的効果が期待できることが示唆されている箇所はない、という指摘も正しく行っている。しかしながら、本件発明に係る組成物のそのような効果をもってしても、係争特許のクレーム24の進歩性を立証することはできない。

複数の物質の単なる合計を越える混合物の相乗効果は、当業者にとって予期せず、驚くべきものであれば、進歩性の指標とみなすことができる(…)。しかし、既知の物質の組み合わせの場合、その組み合わせ自体が自明ではなかったことを示す証拠があることが前提となる。本件のように2つの活性成分の組み合わせが先行技術から当業者にとって自明であった場合、仮に追加の効果が予想外のものであったとしても、少なくとも当業者が先行技術に示された手段を利用する理由があった場合には、その組み合わせの進歩性を立証することはできない。前述の通り、優先権主張時に得られた紫外線全体にわたる有害作用に関する新たな知識により、当該技術分野の当業者は紫外線スペクトル全体にわたる日焼け防止の改善策を模索するようになったはずであるため、進歩性はむしろ、この模索の過程で先行技術で言及されていた可能性のある組み合わせを利用することに限られていた。被告が主張の前面に押し出した予期せぬ効果は、先行技術に促され、先行技術が示唆した本件特許で保護された措置の組み合わせの必然的な帰結にすぎず、このような場合、そのような組み合わせに基づく予期せぬ驚くべき効果であっても、それだけでは進歩性を構成することはできない。

V. 解説

注目していただきたいのは判決の抜粋における以下の箇所です。

「複数の物質の単なる合計を越える混合物の相乗効果は、当業者にとって予期せず、驚くべきものであれば、進歩性の指標とみなすことができる(…)。しかし、既知の物質の組み合わせの場合、その組み合わせ自体が自明ではなかったことを示す証拠があることが前提となる。」

ここではドイツ最高裁は発明の相乗効果が進歩性の示唆になることを認めつつも、その組み合わせ自体が自明ではなかったことを要件としています。組み合わせ自体が自明ではないということはこれだけで進歩性があることになりますので、BGHの見解は相乗効果はそもそも進歩性の判断に関係が無いと判断していると読むこともできます。

このようにドイツでは相乗効果のような予想外の効果が進歩性の判断の際に軽視または無視される傾向があります。これは欧州特許庁のProblem Solution Approachとの大きな相違点になります。

先日の記事「欧州では発明に相乗効果があれば進歩性はほぼ確実に認められます」では相乗効果に基づいて欧州特許庁が進歩性を認めたケースを紹介しましたが、同じケースがドイツで判断されたとしたらおそらく進歩性が無いという結論に至ったかと思います。

 

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