EPOでのPPHは制度的欠陥を抱えています

日本ではPPHは審査を促進しかつ査定率もあげられる手段として紹介されいます。しかし残念ながら欧州特許庁ではその効果は全く期待できません。それは欧州特許庁ではPPHの要件と効果が全くかみ合っていないからです。

まずは欧州特許庁におけるPPHの要件を見てみましょう。

欧州特許庁においてPPHを活用するには「欧州特許出願の全クレームを先行庁(OEE)での許可クレームに対応させ」、「実質的な審査の開始前」に必要書面をそろえ申請することが要件とされています。この「実質的な審査の開始前」という時期的要件により、通常は出願または移行と同時にPPH申請がなされます。

次にPPHの効果について見てみましょう。

欧州特許庁のOfficial Journal December 2016, A106によるとPPHの効果はPACEと同じです(PACEの効果については創英国際特許法律事務所の当該サイトに日本語で分かりやすく説明されています)。このため出願または移行と同時になされたPPH申請は調査段階のPACEとして取り扱われます。しかしながら2014年7月1日以降の出願については自動的に調査が促進されるので調査段階にPACEを申請しても効果がありません。つまり現在は出願または移行と同時になされたPPHには促進効果はありません。

そうすると
「じゃあ欧州調査報告受領後の審査段階でPPHを使えばいいじゃない」
と反論されるやもしれません。

しかし、欧州調査報告では欧州特許庁の独自の調査により日本特許庁では引用されなかった文献が引用されたり、日本特許庁では指摘さなかった記載不備が指摘されたりします。このため欧州調査報告受領後にPPHの要件である「欧州特許出願の全クレームを先行庁(OEE)での許可クレームに対応させる」にはかなり無理が出てきます。したがって欧州特許庁では実質的に審査段階でPPHを使うことはできません。

つまり欧州特許庁でのPPHは、要件を満たせる場面(調査段階)には促進効果が無く、促進効果を発揮できる場面(審査段階)では実質的に要件を満たせないという制度的欠陥を抱えています。

そうすると
「確かにPPHによって審査促進効果がないことは分かった。だけどPPHによって一発査定率が上がったりするんじゃないの?」
と淡い期待を持たれる方もいるかもしれません。

しかしこの期待も儚く裏切られると思います。
まずPPHをしても欧州特許庁は高確率で新たなXまたはY文献を引用してきます(「データで見る欧州特許庁におけるPPHの効果」参照)。また日本特許庁では指摘さなかった記載不備が指摘されることも頻繁です。さらには欧州特許庁は日本特許庁よりも補正による新規事項追加の判断に厳しいので、日本の許可クレームに適合させるための補正が新規事項の追加と判断されるリスクも無視できません。

このように欧州特許庁ではPPHは審査促進効果が無いに等しく、一発査定率を上げる効果も極めて薄いので、代理人費用に見合うだけのメリットが見つかりません。

このため欧州で審査を促進させた場合はPPHでなく審査段階にPACEを申請することをお勧めします。

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