先行技術に対して新規性を確保するためのディスクレーマの導入は難しいです

過去の記事「欧州で導入が許されるディスクレーマ3種」では、欧州特許庁において偶発的な先行技術(Accidental anticipation)に対して新規性を確保する場合は、出願書面に開示されていない特徴を除くディスクレーマ(Undisclosed disclaimer)の導入が許されると説明しました。

ここでAccidental anticipationとは欧州特許庁のガイドライン

it is so unrelated to and remote from the claimed invention that the person skilled in the art would never have taken it into consideration when making the invention.
和訳:クレームに係る発明と無関係であり、かつ、離れているため、当業者が発明を行う際に考慮することがなかったであろうもの。

と定義されています。

つまり先行技術がAccidental anticipationとして認められるには「it is so unrelated to and remote from the claimed invention(クレームに係る発明と無関係であり、かつ、離れている)」という高いハードルを超えなければなりません。例えばある先行技術文献がClosest prior artとして適正が無いことや、発明の逆教唆となっていることはAccidental anticipationの条件として十分ではありません。

実際にある先行技術文献がAccidental anticipationであるか否かが争点となった欧州特許庁の審判部の判例のうち、Accidental anticipationであると認められた判例はほとんどありません。したがって欧州特許庁では先行技術に対して新規性を確保するためにUndisclosed disclaimerを導入することは難しいです。

数少ない判例のうち欧州特許庁の審判部がAccidental anticipationであると認めた具体例は以下の通りです。

T 298/01 (出発物質は同じだが生成物が全く異なるためAccidental anticipationと認められた例

クレームされた発明:リフルオロ酢酸カリウムと、トリニトロベンゼンと、DMFまたはDMSOとを含む試薬。

発明の目的:スルフィン酸およびスルホン酸フルオロアルカン酸の調製するための試薬の提供。

先行技術:トリフルオロ酢酸カリウムと、トリニトロベンゼンと、DMFまたはDMSOとの混合物を用いて、150℃でマイゼンハイマー錯体の形でCF3Kを捕獲し、その後酸化反応させ1-トリフルオロメチル-2,4,6-トリニトロベンゼンを得る方法。

T 1035/03(化合物の用途が全く異なるのでAccidental anticipationと認められた例)

クレームされた発明:化合物Aまたはそれらの生理的に許容される塩。

発明の目的:慢性関節リウマチ治療用の化合物の提供。

先行技術:タキシニンおよびクロモマイシン誘導体の絶対配置をUVおよび円二色性(CD)分光法によって決定するための発色団を調製するための化合物A。

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