ドイツではイ号がクレームとは別の用途に用いられる場合であっても侵害となることがあります

以前の記事「用途限定の解釈(ドイツ)」ではドイツでは物の発明における用途限定は原則的にクレームの範囲を限定しないと説明しました。この考えは特許性の判断時だけでなく侵害判断時にも適用されます。すなわちドイツではイ号がクレームに記載された用途以外の用途に用いられる場合であっても特許権侵害を構成することがあります。

今回は侵害訴訟における物の発明の用途限定の解釈に関するマイルストーン的判決である1978年のドイツ最高裁(BGH)の判決Schießbolzen事件(X ZR 58/77)を紹介します。Schießbolzen事件は40年以上前の判決でありながら今なおドイツの審査基準で引用されています。

背景

クレーム1:

発射薬(15)から分離され、前部硬化部と直径の大きい後部ガイド部とを有する発射ピン(17)であって、前記発射ピン(17)の前部分に着座し、前記発射ピン(17)を発射装置のバレル(13)の任意の位置に保持するために発射装置のバレル直径より大きい直径を有する摩擦部材(17c)を有することを特徴とする発射ピン。

発明の課題と効果:

ピン発射装置ではピンが撃ち込まれる対象物の強度に応じてピンの発射力を調整しなければならない。従来のピン発射装置では発射力を調整するためには発射薬(火薬)の量を調整していた。しかしピンが撃ち込まれる対象物ごとに発射薬の量を調整することは手間を要する。一方で本発明ではバレル(13)内をピンの位置を調整することでピンの発射力を調整することができる。したがって本発明によれば従来のようにピンが撃ち込まれる対象物ごとに発射薬の量を調整する必要がない。

イ号:

バレル直径より大きい直径を有する摩擦部材(キャップ)を有する発射ピン。ただしキャップの目的はピンをバレルの任意の位置に保持するためではなく、ピンを発射薬に隣接した状態で固定させるためである。

論点

イ号は特許権侵害を構成するか?すなわちクレーム1に記載された用途以外の用途に用いられているピンがクレーム1の技術的範囲に属するか?

ドイツ最高裁の判断

イ号は特許権侵害を構成する。すなわちクレーム1に記載された用途以外に用いられているピンがクレーム1の技術的範囲に属する。

判決文の抜粋

Da es sich somit bei dem Klageschutzrecht trotz der im Patentanspruch enthaltenen Zweckangabe um ein Sachpatent handelt, erstreckt sich sein Schutz nach anerkannten Rechtsgrundsätzen auf jeden Gegenstand, der die gleichen Eigenschaften besitzt. Der Sachschutz eines Vorrichtungspatents umfaßt danach alle Funktionen, Wirkungen, Zwecke, Brauchbarkeiten und Vorteile der Vorrichtung ohne Rücksicht darauf, ob der die Patentfähigkeit der Vorrichtung gegebenenfalls allein begründende neue Verwendungszweck im Einzelfall auch tatsächlich genutzt wird (vgl. BGH GRUR 1956, 77, 78 – Spann- und Haltevorrichtung; 1969, 265, 267 f. – Disiloxan; st. Rspr.).

Zu Recht hat daher das Berufungsgericht darin, daß der Beklagte Schießbolzen mit auf ihren Vorderteil aufgeschobenen Kappen hergestellt und in Verkehr gebracht hat, eine Verletzung des Klagepatents erblickt. Nach den Feststellungen des Berufungsgerichts waren die auf die Bolzen aufgeschobenen Kappen ihrer Anordnung und konstruktiven Ausgestaltung nach objektiv dazu geeignet, die Bolzen an jeder beliebigen Stelle des Laufes eines Bolzenschießgerätes festzuhalten.

和訳:このように、本特許は特許請求の範囲に目的が示されているにもかかわらず物特許であるため、その保護は、公知の法理に従って、同じ特性を有するあらゆる物体に及ぶ。したがって、物特許の主題の保護は、物発明の特許性の唯一の理由となり得る新しい用途が個々のケースで実際に使用されるかどうかに関係なく、物のすべての機能、効果、目的、有用性、利点を対象とする(ドイツ最高裁判所 GRUR 1956, 77, 78 – Spann- und Haltevorrichtung; 1969, 265, 267 f. – Disiloxan、既成判例法参照)。

したがって、被告が前部分にキャップが挿入されたピンを製造・販売していたことに本件特許権の侵害を認めた控訴審の判断に間違いはない。控訴審の判断によれば、ピンの前部分に挿入されたキャップは、その配置とデザインにより、ピンを発射装置のバレルの任意の位置に保持するために客観的に適している。

解説

このようにドイツではある物をクレームに記載された用途以外の用途に用いている場合であっても侵害を構成することがあります。したがってドイツおけるクリアランスでは自らが意図している用途だけでなく、それ以外の用途まで調査範囲を広げることがリスク低減の観点から好ましいです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました