新型コロナウイルスの影響による景気の悪化に対する懸念が世界的に広がっています。我々が所属する知財セクターも当該影響と無縁ではありません。日本では特許出願数が未だ回復していませんし、知財部の予算が削られた会社が多くあると聞きます。
このように知財部の予算が削られた場合に検討されるのが代理人費用の削減です。
代理人費用を手っ取り早く減らすには、より安価でサービスを提供する代理人に替えるという手段が考えられます。しかし新しい代理人の仕事の質などが未知であるため、代理人を替えることに対しては心理的ハードルがあります。このため出来ればこれまで長い付き合もあり仕事の質にも満足している代理人との取引を続けたいといった要望もあると思います。
そこで今回は欧州代理人を替えることなくかつ欧州代理人による実質的なサービスに悪影響を及ぼすことなく欧州代理人の代理人費用を削減する手段を紹介したいと思います。
1.維持年金納付専門会社を活用する
欧州特許出願をした場合、出願の係属期間に応じて維持年金を納付しなければなりません(EPC規則51条)。この維持年金は通常、出願を代理している欧州代理人に納付手続きを任せていると思います。欧州代理人の維持年金納付手続きの相場は100~200ユーロです。
しかしこの維持年金納付手続は欧州代理人でなくとも行うことができ、この維持年金納付手続を欧州代理人の半額程度の費用で提供するサービス会社があります。したがってこのような維持年金納付手続サービス会社を利用することで欧州代理人の費用を抑えることができます。
2.クレーム翻訳に機械翻訳を活用する
欧州特許庁での手続き言語が英語の場合、EPC規則71条(3)の通知に対する応答の際には許可予定クレームの独訳および仏訳を提出することが求められます(EPC規則71条(3)の通知って何?という方は過去の記事「EPC規則71(3)の通知は特許査定ではありません」をご参照下さい)。
このクレームの独訳および仏訳は通常欧州代理人が人力で翻訳したものが提出されます。しかしこのクレーム翻訳は仮にミスがあっても権利範囲に影響を及ぼしません。したがって機械翻訳を活用しても実質的な問題はありません。このためクレーム翻訳に機械翻訳を用いることで翻訳費用を削減することができます。過去の記事「EPOでのクレームの独・仏訳は機械翻訳でも問題ありません」もご参照ください。
3.Validation専門サービス会社を使う
欧州特許庁によって特許査定が発行されると、有効化(Validation)という手続を経て移行国各国での権利が有効に成立します。
このValidation手続きには欧州特許弁理士資格が必要でないため、近年様々な会社が参入しています。これらの会社は、通常の欧州代理人の費用(250~500ユーロ/1移行国)の半額以下(100ユーロ程度/1移行国)でValidation手続きを行ってくれます。欧州での移行国が多い場合は、かなりのコストの削減になります。このため、こういった会社によるValidationサービスはコスト削減手段の1つとして検討に値します。
4.自分で出願・移行手続きをする
あまり知られていませんが、欧州特許庁では出願手続および移行手続自体は在外者であっても自ら行うことができます(詳しくは過去の記事「代理人を必要としない手続き(欧州)」をご参照ください)。
出願手続および移行手続自体を自ら行った後で代理人を指定すれば、出願初期にかかる欧州代理人費用を恐らく半額以下にすることが期待できます。
出願手続および移行手続自体は欧州特許庁が提供するWeb-form filingと呼ばれるプラットフォームを利用して行うことができます。また庁費用の納付はクレジットカードを使用することもできます。やり方さえ覚えてしまえばそれほど難しい手続きではありません。
まとめ
上記4つの手段は例えばOA対応や係争対応といった欧州代理人による実質的なサービスの枠組み外の費用を削減するためのものです。このため上記4つの手段を活用して欧州代理人費用の削減を試みたとしても費用削減前と同レベルの品質のサービスを受けられることが期待できます。
特に私が個人的にお勧めなのは4つ目の「自分で出願・移行手続きをする」です。この手段は思われているほど難易度が高くない割には費用削減効果が絶大です。
「上層部から代理人費用を削減しろと言われているけど何処を削れば良いか分からない」という方の参考になれば幸いです。
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