欧州でダミーで異議申立てをすることのデメリット

欧州特許庁において自らの名前をバラさずに異議を申し立てたい場合には、代理人名義で異議を申し立てたり、Strawman Limitedのような名義貸しサービス会社を利用して異議を申し立てることがあります。

このようにダミーで異議を申し立てた場合、自らの名前が公開されないというメリットがありますが、多くのデメリットもあります。

以下に、ダミーで異議申立てをすることの5つのデメリットを説明します。

1.実験データの信憑性を疑われる

欧州特許庁における異議では、実験データを提出して特許性を攻撃することがあります。そして一般企業が異議申立人である場合は、具体的な証拠または根拠なしにこの実験データの信憑性が疑われることはありません。

しかし異議申立人がダミーの場合、異議部が「そんな何処の誰がやったかわからないような実験データは信憑性がないので考慮しませんよ」と言っていることがあります。

欧州における異議では「疑わしきは特許権者の利益に」(Benefit of Doubt)という原則があるため(GL D-V, 2.2)、特許性を攻撃する実験データの信憑性が無いと判断されてしまうと上記原則に基づいて特許性が有ると判断されてしまいます。

このように提出した実験データの信憑性が異議部に疑われるとは異議申立人にとってはかなり痛いです。

2.口頭審理に参加することを躊躇してしまう

異議における口頭審理に参加すると急遽提出が必要になった補正案の適否を判断できたり、ディープな技術的議論を当業者の立場からサポートできたりするといったメリットがあります。

しかし口頭審理に参加した者の名前は口頭審理の議事録に残ります。このためダミーで異議を申し立てた場合に口頭審理に参加してしまうと折角苦労して自社の名前を伏せたにも関わらず自社の名前がバレてしまうというリスクがあります。

この理由からダミーで異議申し立てをした際には口頭審理に参加することを躊躇しがちになります。

3.和解が成立しにくい

以前の記事「EPOおける異議で特許権者から和解を提案する好ましいタイミング」でも説明したように欧州では異議申立後に特許権者から異議申立人に異議の取下げを条件に和解を提案することがあります。

しかしダミーで異議が申し立てられた場合、特許権者は本当の異議申立人を知ることが出来ないため和解を提案しても良い相手か否かを判断することはできません。このためダミーで異議を申し立てた場合は和解という選択肢が実質的に無くなります。

4.なんとなく異議部が冷たい

これは完全な私の主観的な感想なのですが、これまでの経験から欧州特許庁の異議部はなんとなくダミーの異議申立人に冷たい気がします。ダミーで異議を申し立てること自体、異議部の心証形成には不利に作用するのかもしれません。

5.バレる場合も多い

仮にダミーで異議が申し立てられた場合であっても、異議申立ての際に提出される文献または証拠などに基づき誰が本当の異議申立人であるかのを推測できてしまうことがあります。このため自社の名前をバラさずに異議申立てをすることができるというダミーでの異議申立てのメリットも実はそれほど確実なものではありません。

まとめ

上述のように欧州においてダミーで異議を申し立てることには、メリットが不確実な割には種々のデメリットが存在します。このため欧州では安易にダミーで異議を申し立てるのではなく、ダミーで異議を申し立てるか否かの判断は、メリットおよびデメリットを比較した上で慎重に下すことをお勧めします。

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