パリルートで優先期間満了前に欧州特許出願をしても早期権利化効果はありません

欧州での早期権利化を意図して優先期間の満了前にパリルートで欧州特許出願がされる場合があります。しかしパリルートの欧州特許出願の場合、審査の開始時期は出願日を基準に決められるのではなく優先日を基準に決められます(EPC規則70条(2))。このためパリルートの場合、優先期間満了前に欧州特許出願をしたとしても通常早期権利化に寄与することはありません。

以下に優先期間をフルに活用した例と優先期間満了前に出願した例とを比較して優先期間満了前の欧州特許出願が早期権利化に寄与しないことを説明します。

優先期間をフルに活用して出願した場合

図1

優先期間をフルに活用した場合、上の図1のように優先日から起算して12月で欧州特許出願がなされます。そして優先日から17月後に拡張欧州調査報告(EESR)が得られ、その1月後(優先日から18月後)に出願公開がなされ、拡張欧州調査報告に対して6月以内に応答を求める通知がなされます(EPC規則69条、70a条)。

欧州拡張報告に対して応答をした後、すなわち優先日から24月後から出願が審査部の管轄になります(EPC規則10条(2))。

優先期間満了前に出願した場合

図2

一方で図2のように優先日から3月で欧州特許出願をした場合は、優先日から8月ほどで拡張欧州調査報告が得られます。これは上述の「優先期間をフルに活用して出願した場合」における拡張欧州調査報告が得られる時期(優先日から17月後)と比較して確かにかなり早いと言えます。しかしその拡張調査報告に対して応答ができるのは、「優先期間をフルに活用して出願した場合」と同じ優先日から18月後の出願公開後になります(EPC規則69条、70a条)。さらに出願が審査部の管轄になるのも、「優先期間をフルに活用して出願した場合」と同じ優先日から24月後になります。

つまり優先期間満了前に出願をした場合、拡張欧州調査報告は確かに早期に得られるのですが、その拡張欧州調査報告に対して応答が出来る時期、そして審査の開始時期(出願が審査部の管轄になる時期)は優先期間をフルに活用した場合と変わりません。

むしろ優先期間満了前に出願したにも関わらず優先期間をフルに活用した出願と審査請求時期が変わらないということは、その分優先期間満了前に出願した方が優先期間をフルに活用した出願よりも欧州特許庁での係属期間が無駄に長くなることになります。このため優先期間満了前に出願した方がむしろ出願維持年金が高額化することになります。

審査の開始時期を早める方法

上述のように優先期間満了前に出願をした場合は拡張欧州調査報告を得てからそれに対して応答ができるまでの期間が長くなってしまいます(上記「優先期間満了前に出願した場合」の例では10月)。この期間を短縮できる手段がEPC規則70条(2)の通知を受ける権利の放棄です。上記「早期に出願した場合」の例でEPC規則70条(2)の通知を受ける権利を放棄した場合、以下のように拡張欧州調査報告が送付されることなく出願後すぐに審査部による審査が開始され、審査通知(EPC94条(3)の通知)がなされます(GL C-VI, 3)。そして審査通知に対しては直ぐに応答することができます。

図3

EPC規則70条(2)の通知を受ける権利の放棄は優先期間をフルに活用した出願やPCT経由の出願ではほとんど早期権利化効果がありませんが、例外的に優先期間満了前に出願をしたに場合はかなりの早期権利化効果が得られます。

まとめ

上述のように単に早期に出願をしただけでは拡張欧州調査報告を得てからそれに対して応答ができるまでの期間が長くなるので早期権利化の観点から意味がないだけでなく、出願維持年金が高額化するリスクがあります。

一方で拡張欧州調査報告を得てからそれに対して応答ができる期間はEPC規則70条(2)の通知を受ける権利を放棄することで短縮することができます。このため欧州特許庁にパリルートで優先期間満了前に早期に出願をする場合は、EPC規則70条(2)の通知を受ける権利も併せて放棄することをお勧めします。

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