クレームの主題では無い有体物を引用した特定はしないほうがよいです

日本では「エンジンの場所Xに配置されることを特徴とするシリンダヘッド」のようにクレームの主題(subject matter)ではない有体物を引用して発明を特定することがあります。

欧州ではこのような特定方法は外的有体物の引用による特定(Definition by reference to (use with) another entity )と呼ばれ、あまりお勧めできる特定方法ではありません。

外的有体物の引用による特定について欧州特許庁のガイドラインは以下のように規定しています。

F-IV, 4.14 Definition by reference to (use with) another entity
A claim in respect of a physical entity (product, apparatus) may seek to define the invention by reference to features relating to another entity that is not part of the claimed first entity but that is related to it through use. An example of such a claim is “a cylinder head for an engine”, where the former is defined by features of its location in the latter.
[…] In the above example, the cylinder head must be suitable to be mounted in the engine described in the claim, but the features of the engine do not limit the subject-matter of the claim per se.
和訳:F-IV, 4.14  有体物の引用による定義
物理的実体(製品、装置)に関するクレームは、クレームされた最初の実体の一部ではないが、使用を通じてそれに関連する別の実体に関連する特徴を参照することによって、本発明を定義しようとすることができる。そのような請求の例は、「エンジン用シリンダヘッド」であり、前者は、後者におけるその位置の特徴によって定義される。[…]
上記の例では、シリンダヘッドは、請求項に記載されたエンジンに搭載されるのに適していなければならないが、エンジンの特徴は、それ自体が請求項の主題を制限するものではない。

つまり上記「エンジンの場所Xに配置されることを特徴とするシリンダヘッド」の例では「エンジンの場所Xに配置される」という特徴は新規性および進歩性の判断では無視されます。またこのような外的有体物の引用による特定はクレームの主題をどう特定しようとしているのか不明なので不明確と指摘されるリスクも高いです。

つまり欧州特許庁ではこのような外的有体物の引用による特定にはデメリットがありますがメリットがありません。このため欧州での権利化を意図した出願ではこのような外的有体物の引用による特定はしないほうがよいです。

以下に外的有体物の引用による特定を含むクレームを外的有体物の引用による特定を含まないクレームに書き換える例を紹介します(赤字で記載した部分が外的有体物の引用による特定になります)。

例1

(1)外的有体物の引用による特定を含むクレーム:

 エンジン用のシリンダヘッドであってエンジンの場所Xに配置されることを特徴とするシリンダヘッド。

(2)外的有体物の引用による特定を含まないクレーム:

①エンジンの場所Xに配置するためにシリンダヘッドにおけるインテークポートの位置を場所Zに移動させたという背景があり、かつこの配置場所Zに新規性がある場合:
 エンジン用のシリンダヘッドであって、場所Zにインテークポートを有することを特徴とするシリンダヘッド。

②シリンダヘッド自体が公知のシリンダヘッドと何ら差が無い場合:
 場所Xにシリンダヘッドを有することを特徴とするエンジン

例2

(1)外的有体物の引用による特定を含むクレーム:

 クライアントから2つの数字を含むリクエストを受信し、
 前記2つの数字を掛け合わせることで単一の数字を生成し、
 前記単一の数字を含むリプライを前記クライアントに送信するように構成されたサーバであって、
 前記クライアントは前記単一の数字を表示することを特徴とする、サーバ。

(2)外的有体物の引用による特定を含まないクレーム:

①クライアントから2つの数字を含むリクエストを受信し、
 前記2つの数字を掛け合わせることで単一の数字を生成し、
 前記単一の数字を含むリプライを前記クライアントに送信するように構成されたサーバであって、
 前記クライアントは前記単一の数字を表示することを特徴とする、サーバ

②クライアントから2つの数字を含むリクエストを受信し、
 前記2つの数字を掛け合わせることで単一の数字を生成し、
 前記単一の数字を含むリプライを前記クライアントに送信するように構成されたサーバであって、
 前記リプライは表示コマンドを含むことを特徴とする、サーバ。

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