欧州特許庁では審査または異議において口頭審理(Oral Proceedings)という手続きがあります。この口頭審理は審査官と直接会って話をするという点では日本特許庁の面接と共通しているのですが相違点も多いです。このため日本特許庁の面接と同じ感覚で欧州特許庁の口頭審理に対応していると思わぬ落とし穴にはまってしまいます。
以下に欧州特許庁の口頭審理について日本の実務家が誤解しがちな5点を紹介します。
1.口頭審理ってつまりインタビューでしょ?
ガイドライン(GL C-VII, 2)上のみで認められた非公式の手続きであるインタビューと異なり口頭審理は法律(EPC116条)で定められた公式な手続きです。インタビューで対峙するのは担当審査官一人だけですが、口頭審理で対峙するのは3人の審査官からなる合議体です。このようにインタビューと口頭審理とは別の手続きです。
2.口頭審理の後にまた書面手続が続行するんでしょ?
書面審査の補助として行われるインタビューと異なり、口頭審理は決着をつける場です(GL E-III, 8.1)。このため口頭審理は通常、特許査定や特許取消決定などの決定をもって締めくくられます。したがって口頭審理後はAppealを請求しない限り書面で反論する機会は与えられません。このため口頭審理に臨む際には手持ちのカードを出し惜しみせずフルに活用すべきです。
3.口頭審理の最中にも新たな補正案を提出できるんでしょ?
補正案の提出が手続き上問題なく認められるのは口頭審理の召喚状で設定された書面提出の期限までです(EPC規則116条(2))。そして口頭審理中に提出された補請求は「遅れて提出された(late-filed)」ものとして扱われ提出自体を認められないことがあります(GL H-II, 2.7.1)。このため口頭審理の召喚状で設定された書面提出の期限内に考えられうる全ての補正案を提出すべきです。
4.口頭審理って書面審査の確認だけでしょ?
口頭審理では書面審査で重視されていなかった文献に焦点が当てられたり、事前に得られる予備的見解では全く触れられていなかった論点について見解を求められたりと予想外の方向に議論が進むことが多々あります。このため書面審査では重視されなかった理由で決定がなされることに対して心の準備をしておくべきです。
5.口頭審理って誰がやっても結果に差はでないでしょ?
上述のように口頭審理では予想外の方向に議論が進むことが多いので、結果には弁理士の現場での対応能力が大きく影響します。つまり口頭審理の勝率は弁理士によって大きく異なります。口頭審理に強い弁理士については以前の記事「口頭審理に強いAttorneyに共通する5つの特徴」をご参照下さい。
まとめ
このように欧州特許庁の口頭審理は日本特許庁の面接とは大きく異なります。特に「2.口頭審理の後にまた書面手続が続行するんでしょ?」および「3.口頭審理の最中にも新たな補正案を提出できるんでしょ?」について誤解をしていると思わぬ不利益を招いてしまいます。
口頭審理は決着をつける場であることを意識して万全の準備を持って臨むことをお勧めします。
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