【速報】UKのEU離脱と欧州単一特許制度の今後に関するQ&A

今まで各国内での侵害訴訟および取消手続きが必要であった欧州特許に対して、EU内で一括して権利行使等を可能とさせる欧州単一特許制度は、最近では2017年には発効と言われていました。先日の国民投票でほぼ確実となったUKのEU離脱がこの欧州単一特許制度にどのような影響を与えるかを主に法律面から検討してみました。

1.UKは欧州単一特許制度に参加可能なの?

いいえ。
UPC(欧州統一特許裁判所)協定はEU国間の協定であることから(UPC協定第1条、第2条)、UKがEUから離脱した場合、UKは欧州単一効特許制度に参加できなくなります。

2.欧州単一特許制度の発効にはUKの批准が必要じゃなかったっけ?

いいえ。欧州単一特許制度の発行にはUKの批准が必須ではありません。
UPC協定第89条では、欧州単一特許制度は、欧州特許の保有数の最も多い3国を含む13ヵ国の批准から4月目の最初の日に発効すると規定されています。UKがEUを離脱した場合、UKの地位をイタリアが引き継ぐことになります。このためドイツ、フランス、イタリアを含む13ヵ国の批准によって制度の発効が可能になります。

3.ロンドンに設置されるはずだった欧州統一特許裁判所の中央部はどうなるの?

なんとも言えません。
UPC協定第7条(2)では欧州統一特許裁判所の中央部はパリ、ロンドンおよびミュンヘンに設置される旨が規定されています。このため協定が改正されない限り、欧州統一特許裁判所の中央部の一部はロンドンに設置されることになります。

しかしUKがEUから離脱し、UKが欧州単一特許制度に参加できなくなることがほぼ確実になった今、UPC協定第7条が死守され、欧州統一特許裁判所の中央部がロンドンに設置されるということは考えにくいと思う人が多数派のようです。

このため現実的にはUPC協定が再度見直されることが想定されます。

4.制度の発効時期に影響は与えるの?

なんともいえません。発効時期については、以下の3つのシナリオが考えられます。

シナリオ①(予想発効時期:2017年)
UPC協定の見直しはなされない。UKのEU離脱の正式手続が終わる前にドイツ、イギリス、フランスを含む13カ国がUPC協定に批准し、とりあえず制度を発効させる。その後UKがEUを正式離脱・UPC協定を破棄する。
このシナリオだと予定通り2017年ごろには制度の発効が可能です。

シナリオ②(予想発効時期:2019年~?)
UPC協定の見直しはなされない。UKのEU離脱の正式手続の完了後、ドイツ、イタリア、フランスを含む13カ国がUPC協定に批准し、制度を発効させる。
このシナリオだと、最低でも2年の遅れが予想され、制度の発効は2019年以降になると思われます。

シナリオ③(予想発効時期:2020年~?)
UPC協定の見直しがなされ、再度各国の批准手続きがゼロから行われる。
このシナリオだと、遅れは未知数です。もともと2014年に予定されていた制度の発効が2017年までずれ込むことが想定されていたことを鑑みると、遅れは最低でも3年以上になると考えられます。

5.ちなみに今後も欧州特許庁ルートでUKの特許権取得はできるんだよね?

はい、EPC(欧州特許条約)はEUの法律ではないため、UKがEUから離脱した後であってもEPCの加盟国で有り続けられます。したがってUKがEUから離脱した後であっても、EPCを破棄しない限り欧州特許庁ルートでUKの特許権取得は可能です。欧州特許庁の長官もこの点を強調しています

参考条文:
UPC協定第1条
A Unified Patent Court for the settlement of disputes relating to European patents and European patents with unitary effect is hereby established.
The Unified Patent Court shall be a court common to the Contracting Member States and thus subject to the same obligations under Union law as any national court of the Contracting Member States.

UPC協定第2条
Definitions For the purposes of this Agreement:
(a) “Court” means the Unified Patent Court created by this Agreement.
(b) “Member State” means a Member State of the European Union.

UPC協定第7条(2)
The central division shall have its seat in Paris, with sections in London and Munich. The cases before the central division shall be distributed in accordance with Annex II, which shall form an integral part of this Agreement.

UPC協定第89条
This Agreement shall enter into force on 1 January 2014 or on the first day of the fourth month after the deposit of the thirteenth instrument of ratification or accession in accordance with Article 84, including the three Member States in which the highest number of European patents had effect in the year preceding the year in which the signature of the Agreement takes place or on the first day of the fourth month after the date of entry into force of the amendments to Regulation (EU) No 1215/2012 concerning its relationship with this Agreement, whichever is the latest

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