どんな場合に被告へのヒアリング無しでUPCでの仮差止めが認められるか?

統一特許裁判所は以下のUPC裁判規則212条1項にしたがえば被告へのヒアリング無しで仮差止めを認めることができます。

1. The Court may order provisional measures without the defendant having been heard, in particular where any delay is likely to cause irreparable harm to the applicant or where there is a demonstrable risk of evidence being destroyed.

つまり「遅滞が申請人に回復不可能な損害をもたらす可能性が高い場合、または証拠が隠滅される明白な危険がある場合(where any delay is likely to cause irreparable harm to the applicant or where there is a demonstrable risk of evidence being destroyed)」は統一特許裁判所は被告へのヒアリング無しで仮差止めを認めることができるとされています。

それでは「遅滞が申請人に回復不可能な損害をもたらす可能性が高い場合、または証拠が隠滅される明白な危険がある場合」とは具体的にはどういった場合が該当するのでしょうか?

統一特許裁判所は今年の6月に始まったばかりでまだ歴史が浅いのですが、既にデュッセルドルフ地方部は事件UPC_CFI_177/2023で被告へのヒアリング無しで仮差止めを認めています。より具体的には以下の理由から「遅滞が申請人に回復不可能な損害をもたらす可能性が高い」として被告へのヒアリング無しで仮差止めを認めています。

Bei der „Eurobike 2023“ handelt es sich um eine wichtige Leitmesse, die eine erhebliche Relevanz für die gesamte Branche besitzt. Sie ermöglicht es der Antragsgegnerin, mit potentiellen Abnehmern in Kontakt zu treten und so eine eigene Marktpräsenz aufzubauen. Dass die Ausstellung der angegriffenen Ausführungsform auf dieser Messe zu einem kaum rückgängig zu machenden Verlust von Verkäufen bzw. Marktanteilen der Antragstellerin führen kann, liegt auf der Hand. Es handelt sich bei den Produkten beider Parteien um substituierbare, direkte Konkurrenzprodukte.
和訳:「Eurobike 2023」は、業界全体にとって重要な主要見本市である。この見本市は、被告が潜在的な顧客と接触することを可能にし、その結果、市場での存在感を確立することを可能にする。この見本市で争われた実施形態を展示することが、出願人の売上高または市場シェアの喪失につながり、それを覆すことが難しいことは明らかである。両当事者の製品は代替可能な直接的競合製品である。

つまりUPC_CFI_177/2023の指令で述べられた理由を参照すると、

 ①業界全体にとって重要な主要見本市への展示であり、かつ
 ②展示される製品が、特許権者の製品と代替可能である

場合は、「遅滞が申請人に回復不可能な損害をもたらす可能性が高い場合」に該当し、被告へのヒアリング無しで仮差止めが認められうることが示唆されています。

統一特許裁判所が被告へのヒアリング無しで仮差止めを認めたのはこれまで上述のUPC_CFI_177/2023の1件しかありませんが、今後の判例で基準がより明確になることと思われます。

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