遅くとも来年には取得可能と言われている欧州単一効特許(unitary patent)は、EU加盟国からなる参加加盟国の全域にわたって一括で効力を有する権利です。また規則(EU)No 1257/2012第7条は、欧州単一効特許はライセンス契約や譲渡における財産の対象となり得ることが明記されています。
しかし欧州単一効特許に基づくライセンス契約や譲渡の際に具体的にどのような規定が適用されるかは欧州単一効特許関連の法令には明記されておらず、規則(EU)No 1257/2012第7条に従いいずれかの参加加盟国の国内法が適用されるとされています。
以下に具体例を用いてどの参加加盟国の国内法が適用されるかを説明します。
1.単願で出願人がドイツに主たる事業所を有する場合
規則(EU)No 1257/2012第7条第1項によれば財産の対象としての欧州単一効特許は、原則以下の(a)または(b)の要件を満たす参加加盟国の国内特許として取り扱われ、その参加加盟国の国内法が適用されます。
「(a)欧州特許登録簿において出願人が、欧州特許出願の出願日に居住地または主たる事業所を有していた加盟国、または
(b)上記(a)が適用されない場合、出願人が欧州特許出願の出願日に事業所を有していた加盟国。」
したがって本例のように出願人がドイツに主たる事業所を有している場合、財産権としての欧州単一効特許はドイツ国内特許として扱われ、ドイツ国内法が適用されます。
2.共願で出願人1が日本に事業所を有し、出願人2がフランスに住居を有する場合
出願人が複数の場合は規則(EU)No 1257/2012第7条第2項に従い、欧州特許庁のレジスターに最初に示された出願人に上記(a)が適用されます。これが不可能な場合は、次に示された出願人に上記の(a)が適用されます。これも不可能な場合は最初に示された出願人そして次に示された出願人の順に上記(b)が同様に適用されます。
本例のように最初の出願人が日本に主たる事業所を持ち、2番目の出願人がフランスに住居地を有する場合、最初に示された出願人は加盟国に住居も主たる事業所も有しません。したがって最初に示された出願人に上記(a)を適用することは不可能です。一方で2番目の出願人は加盟国であるフランスに住居地を有するので、上記(a)が適用可能です。このため財産権としての欧州単一効特許はフランス国内特許として取り扱われ、フランスの国内法が適用されます。
3.単願で出願人が日本のみ事業所を有する場合
出願人が参加加盟国に居住地も事業所も有さない場合、財産権としての欧州単一効特許は、規則(EU)No 1257/2012第7条第3項に従いドイツの国内特許として取り扱われます。
本例のように出願人が日本にしか事業所を有さない場合、出願人は参加加盟国に居住地も事業所も有さないので、欧州単一効特許にはドイツ国内法が適用されます。
まとめ
このように財産権としての欧州単一効特許には出願人の住居地または事業所に応じて適用される法律が異なってきます。特に共願の場合は欧州特許庁のレジスターにどの出願人が最初に示されているかによって適用される法律が異なります。このため共願でかつ欧州単一効特許の取得を予定している場合は、欧州特許庁のレジスターに表示される出願人の順番にも注意を払う必要があります。
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