ポッキーを食べながら日本の食品企業の国際展開と商標権の国際消尽を考察する

私は日本のお菓子が好きです。日本のコンビニ、スーパー、おかしのまちおかでお菓子を物色するのが日本帰国の楽しみの一つです。日本のお菓子の多様性は日本が世界に誇れる文化の一つであるとも思います。

そういったわけでドイツでも手軽に日本のお菓子が食べられるようになればよいなと常々思っているのですが、この度ドイツでシェアNo2のスーパーマーケットチェーンであるReweで皆様ご存知江崎グリコ株式会社のポッキーが購入できることを発見しました。

写真1

Reweで購入できるのはポッキーのイチゴ味とクッキーアンドクリーム味です。どうやら今年の2月ごろからReweがポッキーを販売し始めたようです)。

写真2

これまでポッキーは日本食品スーパーやアジア食品スーパーで細々と売られていたものの、ドイツの地元のスーパーでは見かけることはありませんでした。ポッキーがドイツのスーパーでも手軽に購入できるようになったことは嬉しい限りです。

欧州における「Mikado」

ところで、ポッキーはもともと欧州ではフランスのGenerale Biscuitと江崎グリコとの合弁会社であるGENERALE BISCUIT GLICO-FRANCEによって「Mikado」というブランド名で販売がされていました(上の写真1参照)。ちなみに江崎グリコはGENERALE BISCUIT GLICO-FRANCEの50%の議決権を保有しています)。

欧州ではなぜポッキー(Pocky)ではなくMikadoという商品名で売られているのかを不思議に思う方もいると思います。「ポッキー」が欧州で商品名として採用されなかったのは「ポッキー」の和製の欧字綴りである「Pocky」が英語では痘痕や男性器を連想させるとして見送られたからだと言われています。一方で、ポッキーの形状がMikadoと呼ばれるゲームで用いられる竹ひごに似ているということでMikadoと命名されたとのことらしいです)。

「Mikado」があるならポッキーが無くともよいじゃないと思われるかもしれませんが、Mikadoはポッキーと比較してバリエーションが貧弱です。ポッキーにはいちご、つぶつぶいちご、アーモンドクラッシュ、宇治抹茶などとバリエーションが豊富ですが、Mikadoにはチョコ、ミルクチョコ、ホワイトチョコのバリエーションしかありません。さらにホワイトチョコのMikadoはほとんど売っていません。

このバリエーションの貧弱さは、欧州に住む日本人だけではなく、日本滞在中にポッキーのバリエーションの豊かさを知った欧州人からも残念がられていました)。

このため今回ドイツでポッキーのイチゴ味およびクッキーアンドクリーム味が購入できることになり喜んだ人は日本人だけではなかったと思います。

Reweで販売されているポッキーはタイ産

ここで疑問に思うのはMikadoという商品があるにも関わらずなぜ今になってポッキーがドイツに展開されたのかということです。

日本食スーパーやアジア食品スーパーで細々と売るならともかく、ドイツのスーパー業界2位のReweでしかも上の写真1のようにMikadoの隣で堂々と売られるとGENERALE BISCUIT GLICO-FRANCEにとっても面白くないことは想像に難くありません。またこれまでポッキーおよびポッキーの類似品が欧州で販売されていなかったという事実を鑑みると、GENERALE BISCUIT GLICO-FRANCEはMikadoの販売について地域排他権を有していたと推測できます。

気になってReweで購入したポッキーのパッケージを見てみるところReweで販売されているポッキーはもともと欧州向けに製造されたものではなくタイグリコによって東南アジア向けに製造されたものをIBT International Brands Trading GmbHという代理店がドイツに輸入したものでることが分かりました。

写真3

ちなみにタイグリコは江崎グリコの数ある海外グループ企業の中で江崎グリコの議決権が50%を下回る(49%)唯一の企業です)。

そうすると今回のポッキーのドイツ展開はGENERALE BISCUIT GLICO-FRANCEおよび江崎グリコが関与していないところでタイグリコまたはIBT International Brands Trading GmbHとReweとの協同で企画されたとも考えられます。

並行輸入と商標権の行使

しかし江崎グリコが今回のポッキーのドイツ展開に関与していないとなると今度は並行輸入と商標権の問題があります。

江崎グリコの欧州でPockyの商標権を有しています)。また以前の記事「ドイツにおける商標権の消尽」でも説明したようにドイツでは欧州外からの並行輸入された商品については商標権が消尽しません。このため江崎グリコは商標権の行使によりReweにおけるポッキーの販売の差し止めることができます。

ところが販売から数か月経過しているにもかかわらず、ポッキーがReweの店頭からなくなる気配はありません。つまり江崎グリコは商標権を行使するつもりはないものと思われます。

ポッキーのドイツ展開に江崎グリコの関与はあったか?

そうすると今回のポッキーのドイツ展開には江崎グリコが関与していたか、または江崎グリコが関与していなかったとしても江崎グリコは咎めるつもりはないと考えられます。

仮にポッキーのドイツ展開に江崎グリコが関与していたとすると、これは江崎グリコからのMikadoを販売するGENERALE BISCUIT GLICO-FRANCEへの挑戦状とも考えらます。もしくはこれまで消費者の多様なニーズに応えてこなかったGENERALE BISCUIT GLICO-FRANCEへのお仕置きとも考えられます。

一方でポッキーのドイツ展開に江崎グリコが関与していなかったとすると、GENERALE BISCUIT GLICO-FRANCEと、今回ドイツに展開されたポッキーの製造元であるタイグリコとの間で揺れ動く江崎グリコの極めて微妙な立場が窺いしれます。この場合、タイグリコにおいて江崎グリコが49%の議決権しか保有していないという事実が江崎グリコの立場をより難しくしているように思えます。

実際のところどうなんでしょうか。江崎グリコの知財担当者にお会いできる機会があったら是非ともお話を伺いたいです。

いずれにせよポッキーの多様なバリエーションがドイツでも気軽に楽しめるようになったことは消費者にとっては大変好ましいことです。既に店頭に並んでいるイチゴ味、クッキーアンドクリーム味以外のバリエーションも今後ドイツに展開されることを期待します。

謝辞

本記事は学習院大学 経済学部経営学科 教授の和田哲夫先生からアドバイスを得て完成したものです。和田先生、貴重なアドバイス誠にありがとうございました。

参考資料

1)https://www.facebook.com/270755909801431/posts/1316006571943021/
2)https://www.glico.com/jp/company/about/access/?category=global
3)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC
4)https://tensidedcoin.wordpress.com/2016/10/27/der-pocky-report/
5)https://euipo.europa.eu/eSearch/#basic/1+1+1+1/100+100+100+100/Pocky

 

 

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