EPOの異議では補請求を出し惜しみすべきではありません

欧州特許庁における異議手続きでは、補請求(auxiliary requests)の提出が特許を維持するために重要になります。一方で特許権者の中には補請求を提出することで主請求(main request)の審査が蔑ろになることを恐れたり、異議申立人にこちら側の意図を気づかれてしまうことを恐れたり、イ号が権利範囲から外れたりすることを懸念したりして、補請求を出し惜しみする方もいます。

しかし欧州特許庁における補請求の出し惜しみは以下の3つの理由からお勧めできません。

1.補請求を提出しても主請求(main request)の審査が蔑ろになることはない

補請求を提出したからといって主請求の審査がいい加減になることはありません。仮に多数の補請求を提出したとしても主請求が維持するロジックが成立していれば、異議部は、主請求に基づいて特許を維持してくれます。このため「補請求を提出することで主請求の審査が蔑ろになる」という懸念は杞憂に過ぎず、補請求を提出しない理由にはなりません。

2.口頭審理中にやっぱり補請求を提出したいと思っても認められない

「補請求無しで口頭審理に臨んだものの、口頭審理で主請求の維持が認められず、特許が取消になりそうになった。そこでやっぱり補請求を提出したい」と思っても時すでに遅しです。異議の口頭審理において新たに補請求を提出しようとしても手続きの対象が変化した( the subject of the proceedings has changed)場合を除いて、新たな補請求は原則late-fileとして却下されます(ガイドライン E-VI, 2.2.2)。

3.審判でも補請求の追加が認めれない

「異議で補請求無しで特許が取り消しになったとしても、審判(Appeal)を請求して新たな補請求を追加すればよいじゃない」と思われる方もいるかもしれません。しかし審判部は第一審である異議手続中に提出されなかった補請求を却下する権限を有しています(審判手続規則12条(6))。特に第一審で提出できたはずの補請求は審判請求と同時に請求したとしても審判手続規則12条(6)に基づき却下されてしまいます(例えばT 825/20、T 1326/21、T 847/20)。

まとめ

上記理由から補請求の出し惜しみには特許権の喪失する大きなリスクが伴います。このリスクは異議申立人にこちら側の意図を秘匿化したり、イ号を権利範囲内に留めておくといったメリットには見合いません。したがって遅くとも異議部による口頭審理の召喚状で指定された期間内に考えられうる全ての補請求を提出することをお勧めします。

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