Two-lists principleの例外

以前の記事「Two-lists principleにおけるリストの長さの下限は?」で、欧州では2以上の特徴のリストから開示されていない組合せを選択する補正はtwo-lists principleの原則により、新規事項の追加に該当すると説明しました。

今回はこのtwo-lists principleの例外を認めた欧州特許庁の審決T 0783/09を紹介します。

背景

出願時のクレーム1

DPP-IV阻害剤の遊離体または製薬学的に許容される塩の形態の阻害剤と、
少なくとも1種のさらなる抗糖尿病化合物またはその製薬学的に許容される塩と、を含む配合剤。

出願時の明細書の記載

21ページの第5段落:
本発明の非常に好ましい実施形態において、
DPP-IV阻害剤は、(S)-1[(3-ヒドロキシ-1-アダマンチル)アミノ]アセチル-2-シアノ-ピロリジン(LAF237)および(S)-1-{2-[5-シアノピリジン-2-イル)アミノ]エチル-アミノアセチル}-2-シアノ-ピロリジン(DPP728)から選択され、
さらなる抗糖尿病化合物は、ナテグリニド、 レパグリニド、メトホルミン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン、グリソキセピド、グリブリド、グリベンクラミド、アセトヘキサミド、クロロプロパミド、グリボルヌリド、トルブタミド、トラザミド、グリピジド、カルブタミド、グリキドン、グリヘキサミド、フェンブタミド、トルサイクラミド、グリメピリドおよびグリクラジドからなる群から選択されるか、またはそのような化合物の薬学的に許容される塩である。

補正後のクレーム1

LAF237と、
ロシグリタゾン、ピオグリタゾンまたはトログリタゾンと、を含む配合剤。

II. 論点

DPP-IV阻害剤のリスト(第1のリスト)から「LAF237」を選択し、
抗糖尿病化合物のリスト(第2のリスト)から「ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン」を選択する補正はtwo-lists principleの原則により新規事項を追加するか?

III. 欧州特許庁の審判部の判断

DPP-IV阻害剤のリストから「LAF237」を選択し、
抗糖尿病化合物のリストから「ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、トログリタゾン」を選択する補正は新規事項を追加しない。

IV. 審決の抜粋

5.3 Thus, the fifth paragraph on page 21 indicates two individual DPP-IV inhibitors, among them the one according to claim 1, namely LAF237, and twenty-two individual antidiabetic compounds, among them the three according to claim 1, namely pioglitazone, rosiglitazone and troglitazone.

5.4 The skilled person would derive from this paragraph that “very preferred” combinations of the invention are

(i) those having the compound “LAF237” as DPP-IV inhibitor in combination with any one of the disclosed twenty-two compounds as the further antidiabetic compound and

(ii) those having the compound “DPP728” as DPP-IV inhibitor in combination with any one of the disclosed twenty-two compounds as the further antidiabetic compound.

Thus, the skilled person would directly and unambiguously recognize forty-four individual combinations, among them the three “basic” combinations referred to in claim 1.

5.5 Since it was stated in decision T 12/81 of 9 February 1982 (see Reasons, point 13) that if “two classes of starting substances are required to prepare end products and examples of individual entities in each class are given in two lists of some length, then a substance resulting from the reaction of a specific pair from the two lists can nevertheless be regarded for patent purposes as a selection and hence as new”, the boards have denied in many cases a direct and unambiguous disclosure for an individualised subject-matter that was only derivable from a document by combining elements from lists.

5.6 However, given the term “can” in the citation from decision T 12/81, the absence of a direct and unambiguous disclosure for individualised subject-matter is not a mandatory consequence of its presentation as elements of lists. Thus, the “disclosure status” of subject-matter individualised from lists has to be determined according to the circumstances of each specific case by ultimately answering the question whether or not the skilled person would clearly and unambiguously derive the subject-matter at issue from the document as a whole (see point 3 above).

和訳:

5.3 このように、21ページの第5段落には、2つの個別のDPP-IV阻害剤、そのうちのクレーム1によるもの、すなわちLAF237、および22の個別の抗糖尿病化合物、そのうちのクレーム1によるもの、すなわちピオグリタゾン、ロシグリタゾンおよびトログリタゾンが示されている。

5.4 当業者であれば、この段落から、本発明の「非常に好ましい」組み合わせは以下のものであることを導き出すであろう。

(i)DPP-IV阻害剤としての化合物「LAF237」と、抗糖尿病化合物として開示された22種の化合物のいずれか1種との組合せ、および

(ii)DPP-IV阻害剤としての化合物「DPP728」と、抗糖尿病化合物として開示された22種の化合物のいずれか1種との組合せ。

したがって、当業者であれば、クレーム1にいう3つの「基本的な」組合せを含め、44の個々の組合せを直接かつ明確に認識できるであろう。

5.5 1982 年 2 月 9 日の審決 T12/81 において、「最終生成物を調製するために 2 種類の出発物質が必要であり、各類における個々の実体の例がある程度の長さの2つのリストに記載されている場合、2つのリストからの特定の組合せの反応によって得られる物質は、特許の目的上選択とみなされ、したがって新規であるとみなされ得る」と述べられているため、審判部は、 リストから要素を組み合わせることによって文書から導出できるにすぎない個別化された主題について、多くの場合、直接的かつ明確な開示を否定してきた。

5.6 しかし、審決 T 12/81 からの引用に「新規であるとみなされ得る」という用語があることから、個別化された主題について直接的かつ明確な開示がないことは、リストの要素として提示されることの強制的な結果ではない。したがって、リストから個別化された主題事項の「開示の状態」は、当業者が文書全体から争点となっている主題事項を直接的かつ明確に導き出すか否かという疑問に最終的に答えることによって、個々の具体的な事案の状況に応じて決定されなければならない。

V. 解説

上述のようにT 0783/09では、欧州特許庁の審判部はtwo-lists principleの原則を定めたマイルストーン的審決T12/81を引用しつつも、そのtwo-lists principleの原則を適用せず、2つのリスト(DPP-IV阻害剤のリストおよび抗糖尿病化合物のリスト)からの選択を伴う補正であっても新規事項の追加に該当しないと判断しました。

T 0783/09から導き出せるtwo-lists principleの原則の例外が認められる要件は以下の2つです。

(1)少なくとも1つのリストにおける選択肢の数が少ないこと

本件ではDPP-IV阻害剤のリストにはLAF237とDPP728との2つの選択肢しか含まれていませんでした。一方でDPP-IV阻害剤のリストの選択肢の数が例えば4以上であった場合は、異なる結論に達していた可能性が高いです。

(2)2つのリストが1の実施形態に組合せで開示されていること

本件ではDPP-IV阻害剤のリストおよび抗糖尿病化合物のリストの両者が非常に好ましい実施形態に組合せで開示さていました。一方DPP-IV阻害剤のリストと抗糖尿病化合物のリストとが別々の実施形態で開示されていた場合は、異なる結論に達していた可能性が高いです。

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