過去の記事「公知の数値範囲とオーバーラップしても新規性が認められることがあります」では、T 26/85を参照し、クレームされた数値範囲が公知の数値範囲と一部オーバーラップする場合は原則、新規性が否定されるが、「技術的事実に照らして、当業者が重複する範囲において先行技術文献の技術的教示を適用しようと真剣に検討(seriously contemplating)」しない場合は、新規性が認められると説明しました。
しかし最近の欧州特許庁の判例では以下のようにこの「真剣に検討(seriously contemplating)」というコンセプトは「直接的かつ一義的(directly and unambigiously)」という欧州特許庁のGold Standardに反すると批判されています。
・T 1132/22
the concept of “seriously contemplating” as described in T 26/85 is not really in line with direct and unambiguous disclosure. In such a case, “seriously contemplating” is instead linked to the desired effect, which implies considerations known for inventive step(”真剣に検討する”という概念は、実際には直接かつ一義的な開示とは整合しない。そのような場合、“真剣に検討する”はむしろ所望の効果と結び付けられており、そこには進歩性で知られる考慮要素が含意されている。)
・T 0667/23
the concept of “seriously contemplating” as described in T 26/85 is not in line with direct and unambiguous disclosure. Instead, when multiple ranges are involved, “seriously contemplating” is linked to the desired effect, which implies considerations known for inventive step.(T 26/85で述べられた“seriously contemplating(「T 26/85で述べられた“真剣に検討する”という概念は、直接かつ一義的な開示とは整合しない。むしろ、複数の数値範囲が関与する場合には“真剣に検討する”は所望の効果と結び付けられており、そこには進歩性で知られる考慮要素が含意されている。)
また欧州特許庁の2026年改訂版ガイドラインではこの「真剣に考える(seriously contemplating)」に関する記載が全て削除されました。つまりクレームされた数値範囲が公知の数値範囲と一部オーバーラップする場合に新規性を確保するための救済手段がガイドラインから全削除されました。
このため今後欧州特許庁ではクレームされた数値範囲が公知の数値範囲と一部オーバーラップする場合は、新規性が常に否定されることになります。
