欧州向けのクレームでは略○○といった表現を避けたほうがよいです

日本でのクレームでは例えば略平行というように略○○といった表現がよく用いられます。

これは完全な平行だけでなく一定の誤差範囲内の実質的な平行も権利範囲に含ませることを意図したものだと思われます。しかしこの略○○といった表現は欧州では以下の3つの理由から避けた方がよいです。

1.不明確と指摘される

クレームの用語の解釈に明細書の定義等が参照される日本と異なり、欧州ではクレームはそれ自体が明確ではなければなりません(GL F-IV, 4.2)。

このため略○○(substantially ○○)といった表現がクレームにあると、”略(substantially)”といった表現が不明確であると指摘されてしまいます。

2.削除が新規事項の追加と判断される

「”略(substantially)”といいた表現が不明確と指摘されたら、”略”を削除すればよいじゃない」と思われる方もいるかと思いますが、このような補正は新規事項の追加と判断されるリスクがります。

例えば出願当初書面には「略平行」という表現しかなく、「略」が省かれた「平行」といった表現が無かった場合は、「略平行」から「略」を削除する補正は出願時の開示範囲を超えると判断されることがあります。

3.仮に審査過程で許可されても異議で逃れられない罠に陥るリスクがある

仮に上記の例で「略平行」から「略」を削除して「平行」とする補正が審査過程で許可され特許になったとしても、異議が申し立てられた場合はさらなる問題の火種となることがあります。

例えば異議部が「略平行」から「略」を削除する補正は新規事項の追加と判断してしまうと、この異議理由を解消するために「平行」にまた「略」を追加する補正が必要になります。

しかし「平行」に「略」を追加する補正は、異議過程で禁止されている保護範囲を拡大する補正であるので許されません(EPC123条(2))。このように異議過程でいかなる手段をもってしても新規事項の追加の異議理由を解消できない現象は「逃れられない罠(Inescapable Trap)」と呼ばれています。「略」を削除する補正はこの逃れられない罠を引き起こすリスクが高いです。

まとめ

上記の理由から欧州特許出願または欧州での権利化を予定しているPCT出願のクレームでは「略○○」といった表現は用いないほうがよいです。

一方で例えば「略」が付されない「平行」といった表現が完全な平行に限定解釈されることを懸念されている場合は、クレームでは略を用いず単に「平行」と記載し、明細書で「本発明における”平行”とは、完全な平行だけでなく、一定の誤差範囲内の実質的な平行も含む」というふうに幅をもたせて「平行」という表現を定義するほうがよいです。

同様の理由から「実質的に○○」や「○○様」、「○○系」といった表現も避けた方がよいです。

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