ドイツにおける特許権侵害に対する取締役の個人責任

日本では会社が特許権を侵害した場合、会社だけでなく会社の取締役個人に対して損害賠償請求が認められることがあります(例えばABE&PARTNERS News Letter No.59参照)。

ドイツでも会社が特許権を侵害した場合、会社だけでなく会社の取締役個人に対して損害賠償請求が認められ得ます。より具体的には取締役が積極的な行動によって会社の侵害行為に関与した場合、または取締役が侵害行為を知りながらそれを阻止しなかった場合に、取締役個人に対して損害賠償請求が認められ得ます(BGH Geschäftsführerhaftung、I ZR 242/12)。

ここで「取締役が侵害行為を知りながらそれを阻止しなかった」ことを裁判で立証する責任は原告である特許権者ではなく、被告である取締役です(BHG Glasfasern II、X ZR 30/14)。つまり裁判で会社による特許権の侵害が認定され、かつ取締役が当該侵害行為を知っていた場合、取締役が侵害行為の防止の対策を講じる必要性がなかったことを立証しなければ、取締役の責任が推定され、取締役個人に対して損害賠償請求が認められ得ます。また仮に取締役が侵害行為を知らなかった場合も、ドイツ会社法(例えば§ 43 Abs. 1 GmbHG)で求められる思慮分別ある企業人としての注意を払わなかったとして取締役の重過失が認められ、取締役個人に対して損害賠償請求が認められ得ます。

このようにドイツでは特許権侵害における取締役の責任の有無の立証責任が原告の特許権者ではなく被告の取締役にあるため、取締役個人に対して損害賠償請求が認められやすいです。

このためドイツの会社に対して特許権侵害の通告があった場合、取締役は速やかに専門家から非侵害鑑定を得たり、製品の構造を変更したり、ライセンス交渉を進めるよう法務・知財担当者に指示することが特許権侵害訴訟において取締役個人が追及されることを防止する観点から好ましいです。

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