特許出願の審査過程では、新規性や進歩性を確保するためにクレームを減縮することがよくあります。
例えば、当初クレームが構成AおよびBを包含していたところ、審査過程で先行技術との差別化を図るために、構成Aのみに限定したとします。
この場合、特許成立後に、クレームから除外された構成Bについて均等侵害(äquivalente Patentverletzung)を主張することはできるのでしょうか?
今回は、この問題について重要な判断を示したドイツ連邦最高裁判所(BGH)のPemetrexed判決(2016年6月14日、X ZR 29/15)を紹介します。
背景
本件欧州特許(EP 1 313 508)は、抗がん剤であるペメトレキセド二ナトリウム(Pemetrexeddinatrium)とビタミンB12を組み合わせて使用する医薬用途に関するものでした。
出願当初のクレームでは、広く葉酸代謝拮抗薬(Antifolat)の使用が規定されていましたが、審査過程でクレームが減縮され、最終的にはペメトレキセド二ナトリウムの使用に限定されました。
一方、イ号は、ペメトレキセド二ナトリウムではなく、ペメトレキセド二カリウム(Pemetrexeddikalium)を使用するものでした。
両者は異なる化合物であるため、イ号はクレームの文言には属しません。
しかし、特許権者は、ペメトレキセド二カリウムの使用が均等侵害に該当すると主張しました。
これに対して、デュッセルドルフ高等裁判所(OLG Düsseldorf)は、特許権者が審査過程で広いクレームを狭いクレームに減縮したことなどを理由として、均等侵害を否定しました。
論点
特許権者が審査過程でクレームを減縮した場合、減縮によって文言上の権利範囲から除外された実施形態について、均等侵害を主張することができるか?
BGHの結論
特許性を確保するためにクレームが減縮されたことが十分明確である場合、減縮によって除外された実施形態について均等侵害が否定され得る。一方、明確性の確保や新規事項追加の回避といった形式的な理由による減縮の場合には、原則として、減縮したという事実だけから均等侵害を否定することはできない。
(本件では、ペメトレキセド二ナトリウムへの限定が特許性確保のために行われたとは認められず、むしろ形式的な理由に基づくことが示唆されるとして、均等侵害を否定したOLG Düsseldorfの判決が破棄され、事件が差し戻されました。)
判決文の抜粋
65 (1) Wenn der Patentinhaber in einem bestimmten Stadium des Verfahrens Schutz für eine Gruppe von Verbindungen beansprucht, die Patentansprüche später aber so gefasst hat, dass ihr Wortsinn nur noch eine einzelne Verbindung erfasst, mag dies im Einzelfall darauf hindeuten, dass er die übrigen Verbindungen aus dem Schutzbegehren ausgenommen hat. Dann ist Raum für die Anwendung des bereits erwähnten Grundsatzes, dass der Patentinhaber über die Rechtsfigur der Äquivalenz nicht nachträglich Schutz für etwas beanspruchen darf, was er nicht unter Schutz hat stellen lassen.
…
67 Sie mag im Einzelfall gerechtfertigt sein, wenn ein Vergleich der unterschiedlichen Anspruchsfassungen unter Berücksichtigung des übrigen Inhalts der zugehörigen Anmeldung bzw. Patentschrift hinreichend deutlich ergibt, dass die Konkretisierung vorgenommen wurde, um den Gegenstand des Patents vom Stand der Technik abzugrenzen und so Zweifel hinsichtlich der Patentfähigkeit zu vermeiden. Wenn dies der Fall ist, ist die Bejahung einer Auswahlentscheidung in der Regel auch dann nicht ausgeschlossen, wenn die Konkretisierung bei objektiver Betrachtung nicht notwendig gewesen wäre, denn die Gründe, aus denen von einer Einbeziehung bestimmter Ausführungsformen abgesehen wird, sind nach der oben aufgezeigten Rechtsprechung grundsätzlich ohne Bedeutung.
68 Wenn die Konkretisierung im Hinblick auf formelle Anforderungen vorgenommen wurde – wiederum unabhängig davon, ob diese Anforderungen objektiv bestanden haben – oder wenn nicht hinreichend deutlich wird, aus welchem Grund sie erfolgt ist, kann hingegen in der Regel nicht von einer Auswahlentscheidung im oben genannten Sinne ausgegangen werden. Sofern der Patentanspruch etwa aus Gründen der Anspruchsklarheit oder zur Vermeidung einer unzulässigen Erweiterung eine verhältnismäßig enge Fassung erhält, können daraus für die Frage einer Verletzung mit äquivalenten Mitteln schon deshalb keine zwingenden Schlussfolgerungen gezogen werden, weil diese beiden Gesichtspunkte für die Äquivalenz nicht von unmittelbarer Bedeutung sind. Die Frage der Anspruchsklarheit kann sich in der Regel nicht stellen, weil es nur darum geht, ob der Einsatz eines bestimmten Austauschmittels als gleichwertig (äquivalent) anzusehen ist, und hierfür grundsätzlich nicht von Bedeutung ist, ob noch weitere gleichwertige Austauschmittel in Betracht kommen. Der Frage, ob eine Ausführungsform in den ursprünglich eingereichten Unterlagen als zur Erfindung gehörend offenbart ist, kommt in der Regel ebenfalls keine Bedeutung zu, weil ein Austauschmittel auch dann gleichwertig (äquivalent) sein kann, wenn es weder in der Anmeldung noch im Patent offenbart, aber dem Fachmann durch den Stand der Technik nahegelegt war.
和訳:
65 (1)特許権者が、手続のある段階において、一群の化合物について保護を求めていたにもかかわらず、その後、特許請求の範囲を、その文言上の意味が単一の化合物のみを包含するように記載した場合、個別の事案によっては、特許権者がその他の化合物を保護の対象から除外したことを示唆する場合がある。そのような場合には、特許権者は、均等論という法理を通じて、自ら保護の対象としなかったものについて、事後的に保護を求めることはできないという前述の原則が適用される余地がある。
67 個別の事案において、異なる時点における特許請求の範囲の記載を、対応する出願書類又は特許明細書のその他の記載を考慮して比較した結果、先行技術との差別化を図り、それによって特許性に関する疑義を回避するために、特許請求の範囲の限定が行われたことが十分明確である場合には、そのような判断が正当化され得る。この場合、当該限定が客観的に見れば必要ではなかったとしても、原則として、選択決定(Auswahlentscheidung)が存在したと認めることは排除されない。なぜなら、前述のCase Lawによれば、特定の実施形態を保護の対象に含めなかった理由は、原則として重要ではないからである。
68 これに対して、形式的要件を満たすために特許請求の範囲の限定が行われた場合(当該要件が客観的に存在していたか否かは、ここでも問わない)、又は、いかなる理由で当該限定が行われたのかが十分明確でない場合には、原則として、前述の意味における選択決定が存在したと認めることはできない。例えば、特許請求の範囲が、請求項の明確性を確保するため、又は新規事項の追加を回避するために、比較的狭い記載とされた場合、そこから均等侵害の成否について必然的な結論を導くことはできない。なぜなら、これら二つの観点は、均等性の判断に直接関係するものではないからである。請求項の明確性については、通常、問題となる余地がない。というのも、均等性の判断において問題となるのは、ある特定の代替手段の使用が、同等価値(均等)と評価されるか否かという点に限られるからであり、その判断において、さらに他の同等価値の代替手段が存在するか否かは、原則として重要ではないからである。また、ある実施形態が、出願当初の書類において発明に属するものとして開示されていたか否かという点も、通常、重要ではない。なぜなら、代替手段が出願書類にも特許明細書にも開示されていなかったとしても、当該代替手段が先行技術に基づいて当業者にとって容易に想到できるものであった場合には、同等価値(均等)と評価され得るからである。
解説
本判決はクレームを減縮したという事実そのものではなく、その減縮が行われた理由が、均等侵害の判断に影響を与え得るということを示します。
例えば当初クレームに構成AおよびBが包含されていたものの、構成Bが先行技術に対して新規性を有しないことから、構成Aのみに減縮したとします。BGHは、このような場合に、クレームの限定が保護対象の選択決定(Auswahlentscheidung)と評価され、均等侵害が排除され得ることを認めています。
一方、例えば当初クレームに記載された構成AおよびBが包含されていたものの明確性を否定する拒絶理由を解消するために構成Aのみに限定した場合であれば、BGHは均等侵害の成否について必然的な結論を導くことはできないとしています。
このため特許性の確保を理由として補正を行う場合には、その補正によって除外された実施形態について、将来、均等論による保護が制限される可能性があることを意識しておくべきです。
