ドイツでは文言侵害が成立する場合は公知技術の抗弁を用いることができません

特許侵害の成否を判断する際に公知技術の抗弁(自由技術の抗弁)という考えがあります。これはイ号が対象特許の優先日前の公知技術であることを示すことで特許侵害の成立を阻止することができる防御法の一つです。

つまり公知技術の抗弁とは侵害判断の場において「うちの製品は文言上は確かにおたくの特許の技術的範囲に属しているように見えるけど、おたくの特許の優先日前に公開された文献に開示された製品そのものだから侵害じゃないよ」ということを主張する防御法です。

この公知技術の抗弁は日本だけでなく米国および中国などでも認められている防御法になります。

このため自社製品が侵害しそうな他社特許が見つかった際の対応として自社製品に対応する先行技術を調査するということがよく行われます。そして自社製品に対応する先行技術が見つかった場合は、いざ特許侵害訴訟が提起された際に公知技術の抗弁を主張できるように保管しておきます。この場合、侵害訴訟が提起されたとしても公知技術の抗弁によって侵害の成立を阻止できるので積極的に自社製品の変更や無効審判を検討することまではあまり必要ありません。

そしてドイツでもFormsteineinwandと呼ばれる公知技術の抗弁と似た防御法があります(BGH, 29.04.1986 – X ZR 28/85)。

しかし注意すべきなのはこのドイツにおけるFormsteineinwandはあくまで均等論の議論においてしか認められず、文言侵害が成立してしまう際には抗弁として認められません(BGH X ZR 22/97)。

したがってドイツでは文言侵害が成立するのであれば上述のように「うちの製品は文言上は確かにおたくの特許の技術的範囲に属しているように見えるけど、おたくの特許の優先日前に公開された文献に開示された製品そのものだから侵害じゃないよ」と主張しても意味がなく、侵害が成立してしまいます(またドイツには無効理由の抗弁もありません)。

このため自社製品が文言侵害しそうな他社のドイツ特許が見つかった場合は、仮に自社製品に対応する先行技術が見つかったとしてもそれだけでは侵害成立の予防に十分ではなく、積極的に自社製品の変更や異議また無効訴訟といった特許取消手続きまで検討しなければなりません。

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