日本では特許権の移転は特許法98条1項1号の規定により登録しなければその効力を生じません。
一方でドイツでは特許権の実体的権利(Sachlegitimation)の移転は移転契約締結時にその効力が生じます(RGZ 151, 129, 135)。特許権の移転の登録はドイツでは宣言的効果(deklaratorische Wirkung)を有するに過ぎず、特許権の移転の効力発生要件ではありません(BPatGE 17, 14, 15f; BGH I ZB 5/67)。
それではドイツでは特許権の移転の登録は何の効果も生じさせないか?と言われると実はそうではありません。
特許権の移転の登録を規定するドイツ特許法30条(3)は以下のように規定しています。
Das Patentamt vermerkt im Register eine Änderung in der Person, im Namen oder im Wohnort des Anmelders oder Patentinhabers und seines Vertreters sowie Zustellungsbevollmächtigten, wenn sie ihm nachgewiesen wird. Solange die Änderung nicht eingetragen ist, bleibt der frühere Anmelder, Patentinhaber, Vertreter oder Zustellungsbevollmächtigte nach Maßgabe dieses Gesetzes berechtigt und verpflichtet.
和訳:特許庁は,出願人又は特許所有者並びにその代理人及び送達代理人の身元,名称又は住所についての変更を,特許庁がその証明を受け取っている場合は,登録簿に記録する。変更が登録されていない限り,従前の出願人,特許所有者,代理人又は送達代理人は引き続き,本法に規定されている権利を有し,かつ ,義務を負う。
ここでドイツ特許法30条(3)で示された「本法に規定されている」権利および義務とは、ドイツ特許庁および裁判所に対する権利および義務のことです(BGH I ZR 138/51)。つまりドイツ特許法30条(3)はドイツでの特許権の移転の登録がドイツ特許庁および裁判所に対する手続上の権限(Prozessführungsbefugnis)の移転させる効力の発生要件であることを規定します。
このため移転契約締結後であっても特許権の移転の登録前は、ドイツ特許庁のRegisterに登録されている元特許権者のみが特許庁および裁判所に対して手続をすることができ、新しい特許権者は実体的権利を所有しているにもかかわらず特許庁および裁判所に対して手続をすることができません。
このようにドイツでは移転契約締結後かつ移転の登録前は、実体的権利(Sachlegitimation)と手続上の権限(Prozessführungsbefugnis)との帰属が乖離します(BGH X ZR 69/11)。
またドイツ特許庁では特許権の移転登録の申請をしてから実際にRegisterに登録されるまで場合によっては2~3月ほどかかることがあります。
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