欧州代理人費用を減らすためにできること 依頼時編

欧州における代理人費用が「hourly rate×欧州代理人の作業時間」と作業時間に依存することを踏まえ、欧州代理人の作業時間を減らすために日本側でできることについて検討してみました。
まずは欧州代理人に出願の依頼をする際にできることを列挙します。

1.簡潔明瞭な英文明細書を準備する

明細書が長いとどうしても発明の把握に時間が掛かり欧州代理人費用が嵩んでしまいます。このため日本語明細書作成段階から、例えば複数の実施形態に共通する特徴を繰り返し記載することを避けたり、明らかに発明に関係のない事項を記載しない等のことに留意し、明細書をコンパクトにすることが好ましいです。

また明細書が短くとも英文が不明確であれば発明の把握に時間が掛かってしまいます。したがって日本語明細書作成段階から、文を短く区切ること、1文内で主語・熟語・目的語を明確にすること、特許用語を乱用しないことなどに気を付け、英訳しやすい明細書を作成することに心掛けることをお勧めします。

2.クレーム内の各特徴の後に符号を付す

欧州ではEPC規則43条(7)の規定によりクレーム内の各特徴の後には括弧に入れられた対応する図面内の符号を挿入ことが好ましいとされています。しかし特に機械系の発明では8割以上の確率で審査官によりクレーム内に符号を挿入することが求められます。このため予め依頼時に符号が挿入されたクレームを用意しておくことが好ましいです。

もちろん符号を挿入する作業を欧州代理人に任せることもできますが、日本からの依頼の場合は欧州代理人が明細書を作成したわけではないので、どうしても符号の確認作業に時間がかかってしまいその分代理人費用が嵩んでしまいます。

また依頼時に符号が挿入されたクレームが欧州代理人の手元にあれば、図面とクレームとを対比するだけで短時間で大まかに発明を把握することができるので、その後のOA対応の際の代理人の作業時間を減らす効果も見込まれます。

ちなみに複数の実施形態が存在し、1つの特徴の対して複数の符号が存在する場合は、最も重要な実施形態(通常は第1実施形態)の符号をクレームに挿入するだけで足ります(ガイドラインF-IV, 4.19)。また符号はクレームを限定するとは解釈されません(EPC規則43条(7))。

3.従属クレームを増やす

欧州特許庁の調査部門は独立クレームおよび従属クレームの特徴を調査することが義務付けられています(ガイドラインB-III, 3.7)。一方で明細書のみに記載されている特徴については調査することが義務付けられていません(T1679/10)。

このため例えば出願が1つの独立クレームしか含まない場合は:

  第1OAで文献1が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Aを追加して文献1に対して新規性を確保
  ↓
  第2OAで文献2が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Bを追加して文献2に対して新規性を確保
  ↓
  第3OAで文献3が引用され新規性が否定される
  ↓
  明細書から特徴Cを追加して文献3に対して新規性を確保
  ↓
  第4OAでようやく特許性が認められる

と引用文献が小出しにされ権利化手続が極めて非経済的になる恐れがあります。

一方、上記例で特徴A、BおよびCに関する従属クレームを予め出願時に準備しておけば最初のOAで審査官が特徴Cに関して特許性を認めることを確認できます。このため調査してほしい特徴は予め従属クレームに明記しておくことをお勧めします。

一方クレーム数が16以上になると1クレームごとに235ユーロの追加費用が発生してしまいますので、コストパフォーマンスの観点からクレームの数は15以内に抑えることが好ましいです。


4.PCT出願の移行時に明細書の補正を指示しない

PCT出願の移行依頼時に移行と同時に誤記・誤訳等の訂正を目的とした明細書の補正の指示を頂くことがあります。しかし移行時の明細書の補正は以下の2つの理由からお勧めしません。

1つ目の理由は明細書の補正が無駄になる恐れがあるからです。欧州では特許査定の前に補正により審査官により引用された引用文献を明細書に列挙し、補正後のクレームに含まれない実施形態を削除等して明細書をクレームに適合させる作業があります。このためわざわざ移行時に誤記・誤訳を訂正した箇所が適合作業により削除され、移行時の明細書の補正が無駄になる恐れがあります。

2つ目の理由は補正により追加ページ費用が発生する恐れがあるからです。欧州では出願書面のページ数が35ページを超えると1ページごとに15ユーロの追加費用が発生します。そしてこのページ費用は通常国際公開のページ数を基に算出されます。すなわち例えば国際公開された日本語出願書面のページ数が35ページの場合はページ費用は掛かりません(過去の記事「Euro-PCT出願のページ費用(Page Fee)の計算方法」を参照下さい)。

しかし移行時に明細書の補正をすると補正後の英文明細書のページ数を基にページ費用が算出されます。一般的に英文明細書のページ数は日本語明細書のページ数よりも20~30%多くなるので、移行時の明細書の補正により本来は支払う必要のなかったページ費用が発生してしまう恐れがあります。一方、移行後(例えばEPC規則161条の通知の際に指定された期間)に明細書を補正しても追加費用が発生することはありません(ガイドラインA-III, 13.2)。

このため移行と同時の明細書の補正は避けることをお勧めします。もしクレームの解釈に重大な影響を与えうる誤記等がありどうしても審査開始前に明細書の補正が必要な場合には、EPC規則161条の通知の際に指定された期間に明細書の補正を指示することをお勧めします。

5.出願(移行)手続きおよび庁費用納付を自ら行う

以前の記事「代理人を必要としない手続き(欧州)」でも説明しましたが、出願(移行)手続および庁費用の納付手続は欧州代理人経由でなくとも自ら行うことができま
す。

このため出願(移行)手続および庁費用納付手続を自ら行うことで、当該作業に掛かる欧州代理人費用を削減することができます。

この手法による費用削減効果は絶大ですが、この手法は欧州代理人のパイを直接的に奪う行為としても解釈されかねないので協力してくれる欧州代理人を探すことが難しいかもしれません。

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